メイン

□夏の恋はお疲れSummer
3ページ/25ページ

「ほらよ、頼まれたブツ。」

些か乱暴にテーブルの上に紙袋が置かれ、上から佐助が中身を覗き込むと表情を強ばらせる。

「その顔はどういう用途かは知ってるんだな?」

「まあね。前にネットで調べたりしたから…。」

「それなら俺に頼らないで自分で用意しろっての。お陰で通販の購入履歴が汚れたっつーの。」

「ごめんね、家だと親に見つかる確率高くて。それとさ、サイトも色々見たんだけど男同士の絡みとか気持ち悪くて、あんまり直視出来なかったんだよね。」

ネットに溢れている情報の中には相当エグいものもある。ソレに触れてしまって拒絶反応を見せるあたり、佐助はノーマル寄りなのかもしれない。

「その気持ち悪い絡みを真田とはしたいんだろ?」

「………したい、けど」

「けど?」

「旦那はどう考えても男に欲情する人じゃないだろ?」

いや、お前の気持ちを百も承知の上で欲情をひた隠しにしてネチネチと付け狙ってる腹黒い男だぞ?

「それならお前がソノ気にさせるようにすりゃいいだろ?」

「そ、そう?でも…俺様に出来るかな?」

真実を述べるのをグッと堪え、寧ろ幸村に有利な展開になるよう導く形になっていく状況に、政宗は悔しくてギリッと奥歯を噛む。

「俺だって知識しかないんだから、あまり期待すんなよ?」

「……うっそ?マジで?だって片倉の旦那とは?」

「ばーか。アイツとはそんな関係じゃねーよ。」

「なんだぁ、俺様てっきり竜の旦那は経験豊富なのかと思ってた。」

「それで俺に頼んで来たのか?」

「それもあるけどさ、こんな事相談出来るのアンタしかいないから…。」

クラスの親しい連中は大抵気付いているが、佐助を変に茶化したりしてバラしたのが万が一幸村に発覚した時を考えるだけで恐ろしく、敢えて気付いてないフリをしている。

なので佐助の中で自分の片思いを唯一知っているのが政宗と思っている。

中立的な立場を取ると幸村に言っている手前、佐助に幸村の本性をバラす気はないが、余りにも自分を信頼している佐助には少しだけ胸が痛む。

「しょうがねぇな。乗りかかった船だ。付き合ってやるよ。」

「恩に着るよ!」

「そう言えば小十郎に貸しって何なんだよ?」

「それは、俺様へのレクチャー終了後に教えるよ。」

政宗が引き受けざるを得なくなった小十郎への貸しが気になりつつ、紙袋の中から書籍を取り出す。

「んーと何々、アナ……ニー?」

「要は後ろ使って一人で楽しむ奴用のハウツー本だとよ。」

「へぇ、これは流石に初めて聞いたなぁ。どれどれ………………」


佐助がページを一枚読み進める毎に『うひゃ』だの『マジかよ?』と甲高い悲鳴をあげる。

「まずは自分で慣らしておいて、真田のデッカイブツを収められる様に開発しとけばいいんじゃないか?」

「や、確かに慣らす詳細は分かったけど……つか何で真田の旦那がデッカイって知ってるんだよ?」

「アイツ、水泳の後ロッカーでフルチンのまま堂々と歩いてんだろ?嫌でも視界に入るっての。」

ベビーフェイスに反して鍛え上げた男らしい筋肉の付いた身体を、人目を気にする事無く晒しているのは体育会系な幸村らしい。

「俺様、旦那をそう言う意味で意識してからはマトモに見てないからなぁ……。」

先日、使い先の宿で一緒に風呂に入らざるを得ない状況になった時も、ろくずっぽ直視出来ず、悪気なく湯船で身体を密着された時は背中で厚い胸板に触れはしたが……いや、胸板以上にもっと大変な箇所も触れてきたのだが。

「そのまま腰浮かせて誘っちまえば良かっただろうが?」

口に出してはいないが、一人百面相をしている佐助が、思い出している内容が手に取るように分かってしまった政宗は、眉間に皺を寄せる。

「だーかーらー!一応俺様初めてだし、それにいきなりそんな事したら旦那がドン引きするに決まってんだろ?」

だから、アイツはドン引きどころか意識のないお前を介抱しながら舐め回すようなド変態だ!と言えないのが次第に辛くなってきた。

「まあ、まだ告白もしてないのに段階飛ばし過ぎってのは分かってるんだ。」

「そうだったのか?」

政宗は幸村の思いをとっくに知っているので、告白なんてなまっちょろい段階を飛ばしていても気にしていなかったが、佐助は未だ幸村に片思いだと信じ込んでいるのを少しだけ忘れかけていた。

「でもさ、この前かすがが珍しく連絡してきて…。」

「ああ、あの幼なじみのか?確か隣りの女子校行ってるんだよな?」

幸村と同じく、近所で親ぐるみの付き合いがあったかすがは、すれ違う人が皆一様に振り返る程の美少女だ。昔はそんな彼女に淡い恋心を抱いていた佐助だったが、中一の時、かすがが有名な新体操部のコーチに一目惚れして以来応援する側に回っている。

「俺様はてっきりかすがと上杉コーチがついに付き合うって朗報かと思いきや、新体操部の先輩が真田の旦那に告白したいから話を通して欲しいと頼まれたがどうするって話でさ。」

「それで話を通したのか?」

「俺様が電話口で付き合ってる人はいないと思うけど?って言ったのに、『そうか、真田は心に決めた人がいるのか。ああ、気にするな、ちゃんと伝えておく』とか一方的に捲し立てて切っちゃった。」

「そりゃ先輩とやらが側に居て聞いてたんだろうな。」

「ご名答。後でもう一回連絡来て『アイツは女が苦手なのは知っているが、先輩にどうしてもと念を押されてしまってな。』だって。」

「それで、急に焦り始めたって訳か。」

「うん……俺様じゃあどう足掻いても女の子には叶わないからさ。せめても先に関係持っちゃえばって………。」

相当思い詰めていたのか、顔は無理に作り笑いしながらも、目には涙がうっすらと溜まっている。

「あー、もう!泣く位好きならさっさと告れよっ!」

テーブルに置いてあったティッシュを箱ごと投げ渡すと、佐助はしっかりキャッチして二、三枚取り出して涙を拭う。

「ありがと………やっぱり竜の旦那に相談して良かった。」

鼻の頭を真っ赤にしながら、安堵の笑みを浮かべた佐助に、政宗の良心は未だかつて無くズキズキと痛んだ。

「あのな猿……アイツは…『善は急げって言うし、早速帰って練習してくるよ!』」

食い気味に言葉を遮られた政宗は、せいぜい頑張れよと、幸村の本性ではなく労いの言葉に切り替えた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ