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□夏の恋はお疲れSummer
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「あっついねー。」

冷房など設置されていない教室で、佐助はいつも以上にグッタリと机に伏せながら気候に文句をたれていた。

「お前が言うと余計に暑苦しいから口に出すな。」

同じく暑さが苦手な政宗は、購買で買って来たガリガリくんで涼を取るが、暑さが勝り齧る先から溶けていくのに苛立っていた。

「暑いのが苦手だと、この時期ばかりは真田が暑っ苦しいんじゃねえか?」

「旦那は年中暑っ苦しいから別に変わらないよ?」

基礎体温の高い幸村は夏の暑さなど感じていないようで、相変わらず元気一杯昼休みも校庭に出て走り回っている。

「お前は外に付き合わなくっていいのか?」

「ん、俺様日焼けすると肌が火傷しちゃうから。昔ガキの頃旦那がサッカーやろうって炎天下の下に長時間いたら、全身火脹れ出来ちまったんだ。」

自分の体質を知っていても、遊ぼうと幸村が誘ってくれるのが嬉しくて付いて行ってしまった浅はかさに、我ながら呆れてしまう。

「だからそれ以降旦那は俺が日に浴び過ぎないように気い使ってくれて。」

「へぇ、意外と空気読めるとこもあったんだな。」

「旦那は結構聡いんだから馬鹿にすんなっての。」

「それで、どんな風に気ぃ使ってくれるんだ?」

これはもう惚気を聞かされる前提なのを承知で話を振る政宗に、周辺の生徒は皆一様に聞き耳を立てる。

「えー、例えば水泳の時もなるべく見学しろとか、水に入るとしてもシャツを着用すれば日焼けを防げるぞーって担任に話つけてくれたり?」

「へぇ。南国なんかじゃ熱中症対策でシャツ着るのは当たり前だけど、そんな知識はアイツにあるか?……案外お前の乳首他人に見せたくないとかじゃねぇの?」

「もう、ちょっとは褒めてやってよぉ。」

「褒めたら褒めたであらぬ疑いかける奴がよく言うぜ。」

「だって…旦那ってあんなに格好良くて優しいから、狙ってる奴多いだろ?」

その言葉に聞き耳を立てていたクラスメイトは全員『それはない!』と突っ込みたかった。

幸村の佐助への盲目っぷりを目の当たりにして挑む猛者はそうそういないし、ぱっと見はそこいらのアイドル顔負けのあどけない可愛さと美貌だが、佐助に向ける雄々しい獣のような顔を知っているだけに、遠巻きに二人のなりゆきを一様に見守っている。

「そんなに心配すんならさっさと押し倒してでも抱かれて自分のモンにしてこいっての!」

毎度毎度の政宗の忠告に、いつもなら『俺様には無理無理!』とごねるのがお約束だが、今日の佐助は虚ろな顔で考え込んでいる。

「そっか…そう、だよね。夏休みなんか始まったら夏の開放感で旦那を狙う輩が老若男女に増幅するし……。」

「おい、猿……?」

「いくら硬派の旦那だって薄着の可愛い女の子が迫って来たら無碍には出来ないだろうし……。」

アイツは薄着の女子より、お前の第一釦を開けたシャツの襟ぐりから見える鎖骨に興奮してるんだぞ?と言ってやりたいのをグッと堪える。

「そんなの俺様耐えられない!ねぇ竜の旦那、折り入って頼みがあるんだけど……。」

政宗の耳元に顔を近付け、口元を手で隠しながら小声で耳打ちをしているので何を言っているのか聞こえなくなった周囲はやきもきする。

「なっ!何で俺が……。」

「アンタならそう言うの詳しいだろぉ?な、俺様を男にする為に頼むっ!」

男にするの一言に周囲は一気にざわめく。

あれ?猿飛ってソッチなの?

つか伊達に何を頼んだんだ?


クラスメイトのざわめきに居たたまれなくなった政宗は、机に頭を付けて土下座もどきをする佐助の後頭部をノートで叩いた。

「とにかく、そんなの自分で何とかしやがれ!」

「そんな冷たい事言っちゃうんだぁ……それなら、片倉さんにお願いしようかなー?」

「なっ!何でそこで小十郎が出てくんだよ?」

片倉小十郎と言えば政宗のボディガード兼運転手の、どう見てもソノ筋にしか見えない男として知られている。

「俺様、片倉の旦那にはちょーっと貸しがあるんだよね。」

「何だよそれ…………。」

「知りたい?」

「別に?俺には関係ねえからな。」

政宗が劣勢に立たされているレアな光景に、周囲は一挙手一投足見逃すまいと息をのむ。

「……俺様の貸しってぇ、竜の旦那にも耳よりな情報なんだけどなぁ。」

「マジかよ?」

グッと下唇を噛み締めて歯軋りを堪える政宗の心が揺れているのが目に見えて伝わる。

「旦那には迷惑かけないからさ………ね?」

「ぐ…………っ。」



政宗が押された上に折れると言う大波乱が起き、今年の夏に一波乱起きるのではないかと言う噂は、翌日には学校中に広まっていた。
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