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□4/10は主従の日
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「そう言や、お前は何であいつに仕えてんだ?」
「何だい藪から棒に。」
最近甲斐と同盟を結んだ奥州の領主は、何かにつけて上田を訪れては主とその忍を茶化してくる。
「うちの忍もそこいらの国の奴らになんざ負けない強者揃いだが、そいつらがこぞってお前の名を出す。」
「へぇ、俺様やっぱり忍なのに目立ちすぎじゃない?」
軽口を叩きながらも、まだ城下町の視察に赴いた主に留守を任された佐助は、優雅な手つきで茶筅で茶をたて、政宗に差し出す。
「忍としての働きは軽妙な口先とは程遠く冷酷非情、その癖まだまだ甘ちゃんな主の裏で城の切り盛りから侍女の真似事までこなしてる。」
出された抹茶は口当たりがきめ細かく、添えられた茶菓子には桜の蕾が添えられ季節感を出している。
「やだっ、奥州の忍はたかだか草一つをそんなに執拗に調べ上げてんの?」
「さあな、上田を調べさせると大抵お前の名が挙がるんだから仕方ないな。」
「もしかして、竜の旦那も優秀な俺様が欲しくなっちゃったとか?」
「優秀かどうかはともかく、共に戦う奴は強いのに越したこっちゃねぇ。」
「そらごもっとも。旦那なら俺様を上手く使いこなしそうだね。」
「そう言っときながら、動く気なんざさらさら無いんだろ?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた政宗に、佐助も負けじにとびっきり嫌みなまでの笑みを浮かべる。
「わかんないよぉ?アンタの言う通り優秀な俺様は引く手あまただしぃ、真田の旦那は給料以上に働かせる割に忍を草として使いこなせない甘さが致命的だし。」
「何だ、随分と辛辣だな?」
佐助の発言に隣の襖が僅かに軋んだのに政宗も気付き、笑いをかみ殺して忍の悪だくみに乗り始めた。
「あんな初で一本槍じゃ伽の相手も大変なんじゃねーか?」
政宗の発言に今度は襖をガリッと引っ掻く音が聞こえてきた。
「あの旦那が妙に手練れてたら逆に引くし。ま、俺様がひとつひとつ教えてやるってのも勤めだからね?」
「…って事は、真田とは勤めで寝てるんだな?」
すると襖を引っ掻く音が止まり、ズリズリと襖を擦りながら手が下がる音が聞こえ、落胆している様子が音だけで丸わかりだ。
「残念でした〜。そんなの俺様の給料には入ってませんっての。勤めってのは、年長者としてって事だよ。」
佐助の言葉に頭を垂れていたであろう襖の向こうは、バサッと髪を振り乱して上を向いた音が聞こえる。
「あ、でもぉ、俺様真田の旦那の真っ直ぐで清廉なトコに惚れてるからさ、盗み聞きとかされたら幻滅しちゃうかも?」
その言葉に襖は威勢良く左右に開かれ、真ん中には涙目の主が顔を真っ赤にして仁王立ちしていた。
「そ、それは誠か?」
この茶番に付き合っていた政宗は、かみ殺していた笑いが我慢できなくなり高らかに笑い転げた。
「ちょ…猿…お前、本当に従者かよ?少しは主敬えっての!!」
笑いを洩らしながら突っ込みを入れられても説得力が薄く、幸村は漸く二人にからかわれていたのだと悟った。
「二人して謀ったのか?」
「だって、旦那が必死に足音消して隣の部屋に来るのが可愛くってぇ。」
「可愛くなどないっ!!」
「ったく、これ以上の惚気は俺が帰ってからにしろよ?」
このまま此処にいては二人が甘甘の空気になり当てつけられるのは目に見えている政宗は、上田の畑で農業指導をしている小十郎の所へと退散した。