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□チョコレイトプレイ
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街が甘ったるいチョコレートの香りに包まれる季節。
デパートは勿論、普段いきつけのスーパーから駅のコンコースにまで特設コーナーが設けられ、女の子達が真剣な眼差しで自分の想いを託す一品を吟味している。
「Ha!今は本命より友チョコ自分チョコの方が売上に貢献してるんだぜ?本命一本なんて夢見過ぎだぞ猿っ。」
「竜の旦那は夢がないねぇ〜。」
学校内もどことなくソワソワしている中、佐助と政宗はお互いのバレンタイン観を討論していた。
「しかも今時手作りなんて付き合ってなきゃ重過ぎんぞ?」
「や、だってさぁ…旦那には市販品だけじゃ俺様の想いを伝えるには物足りないんだもん。」
「つか、未だに付き合ってなかったって方が意外つか奇跡だけどな…。」
政宗だけでなく、二人を知る者は皆一様に驚く。
謙虚で清廉潔白な幸村は他者には思慮深いのだが、幼なじみの佐助にだけは我が儘を言い、当たり前のように甘え、我が所有物のように振るまう。
部活が終わるまで待っておれ、一緒に帰ろう。
なんてのはまだ可愛いもので、毎日の弁当は中休み、昼休み、放課後用と三食分におやつまで要求している。
「ちゃんと旦那のママさんから許可貰ってるしぃ、食材提供してもらってるから。」
と、佐助は弁当作り自体は苦痛ではなく、むしろ嬉々としてやっている。
「お前、それじゃあただの都合の良い飯炊きじゃねぇか?」
薄々気が付いてはいたが、改めて言われてしまうと流石の佐助も軽く凹んでしまった。
「別に…それでもいいんだよ。」
「強がり言いやがって。」
「本当だよ、俺様が作ったご飯が旦那の血や肉になるんだって思うだけで満足だし。」
「どんだけドMなんだか?」
健気な佐助の尽くしっぷりを嘲笑うと、
政宗は机の上に置かれた買い物袋を覗き込む。
「そういや何だこりゃ?」
「試作用の材料だよ。去年は生チョコだったから今年は熱々のフォンダンショコラがいいかなーって。」
「んなのより一番いいの教えてやるよ?」
「え、竜の旦那お菓子作るっけ?」
「まあな。まずはこのチョコ刻んで温めた生クリームと混ぜる。」
「ふんふん」
「よく混ぜたら人肌に冷ます。」
「へぇ〜冷ましちゃうんだ。それで?」
「着てるもんを脱ぐ。」
「え?誰が?」
「お前がに決まってんだろ。」
「それで…?」
「脱いだ身体にチョコソースを刷毛で塗ったくる!」
「んだよぉ〜!真剣に聞いた俺様が馬鹿みたいじゃん!」
「馬鹿はお前の方だよ!何時までも飯だけ喰わせてないで自分も喰わせちまえよ?」
「えぇええ〜無理無理っ!」
佐助は耳まで朱色に染め、手と顔をブンブンと 横に振る。
「真田は食い意地はってるから確実に舐めてくるぞ?」
「や、旦那に舐められたら俺様勃っちゃうよぉ」
「……おっ勃ったモノにもチョコかけて喰わせとけ!」
呆れた政宗に教室を追い出された佐助は、幸村の部活終わりを待たずに一目散に帰宅した。
「ありゃあ試してみるに2000円だね。」
こっそり聞いていた慶次が楽しそうに政宗へと近付き賭けてくる。
「他がないから賭けにならねーだろが。」
佐助を知る者は、試さない方に賭ける気はさらさらないらしい。
「だな。明日学校来たら体がチョコ臭そうだもんなぁ。」
更に途中から聞き耳をたてていた元親が間に入る。
「真田の野郎もいい加減喰っちまえばいいのにな?」
そんな風に言われているとは露知らず、佐助は自宅のキッチンで生クリームを温めている。
「濃さは…これ位のがいいかな?」
あまり濃いと刷毛で塗りにくいので、佐助は気持ちゆるめのチョコフォンデュソースを作っていた。
「後は少し冷まして……って、俺様何しちゃってんの?」
刷毛を握り締め、ワイシャツのボタンを四つ開けた段階で漸く我に返った佐助は、テーブルに置いた大量のチョコフォンデュソースを前に溜め息をつく。
「竜の旦那に乗せられてんじゃないっつーの。」
もしかしたら幸村が受け入れてくれるのでは?などと甘い期待に胸躍らせ、危うく告白を四段階くらい吹っ飛ばしてとんでもないマニアックなプレイを迫るところだった。
「俺は…旦那が美味いって笑ってくれたら、それだけで良かったのになぁ。」
秘めていたはずの幸村への想いが何故か政宗にバレ、気持ち悪がられるかと思いきや茶化しながらもちゃんと聞いてくれるのを良いことに、佐助は今まで留めていた苦しい胸の内を洗いざらい話してしまった。
それからと言うものの、幸村への想いを告げるべきだと政宗に乗せられて調子づいてしまった。
「あー、もうっ!早く片付けて試作しなきゃっ!」
並々とチョコフォンデュソースの入った鍋をテーブルから持ち上げ、シンクに運ぼうと振り返ったと同時に、けたたましい声と足音が乱入して来た。
「さすけぇええ!あれ程一人で先に帰るなと言っておいただろうっ!……ん?」
バシャッと水音が聞こえると同時に、幸村の鼻孔をチョコの甘い香りがくすぐる。
「あ〜あ、旦那が急に叫ぶからこぼしちまったよ。」
幸村の不意打ちな大声で体をビクつかせてしまった佐助は、鍋の中身を1/3程零してしまった。
「ああ、すまぬ佐助にかかってしまったな。」
溢れたチョコソースは佐助のボタンを外した胸元にベッタリと零してしまっていた。
「あちゃー、シャツにシミ出来ちまうなぁ。ちょっと洗い流してくるよ。」
「ならぬ。」
「へ?や、だってワイシャツにシミ…」
「お前は食べ物を大切にしろと恒日頃より申しておっただろう?」
「ま、まあね…。」
「まだ床に落とした訳でもないチョコレートを洗い流して捨てるとはカカオ農家に申し訳が立たぬではないかっ!」
カカオ農家って何だよ?と突っ込みたいところだが、幸村の真剣な眼差しと声色に、すっかり萎縮してしまう。
「でも…これじゃあもう食べれないし、食べたいならまだ鍋の中に残ってるのがあるよ?」
「馬鹿者がっ!こちらもまだ食べられるだろうがっ!」
「ひぃっ!」
そう言うや否や幸村は身体を屈めてチョコがベッタリ付いた佐助の胸元に顔を近づけると、熱い舌で拭うように舐め取り始めた。
「や、ちょっ、何してんの…旦那ぁ!」
「このままでは勿体ないからな、俺が全部食べてやる。」
「だ、な、きたな…いぃっ!やぁ…んっ!」
幸村を押しのけようにも両肩をガッシリ掴まれて固定されては力の差は歴然で払う事が出来ない。
しかも鎖骨に溜まったチョコを幸村が舌だけではなく唇を付けて啜られると、膝からガクガクと力が抜けていってしまう。
「んむ、調度良い甘さだな。俺好みだ。」
こんな時に一番見たかった幸村の笑顔を見せられては、これ以上拒む方が悪い気になってしまい、佐助はゾワゾワと感じる身体を必死で堪えて幸村にされるがままにさせてしまう。
「ん?これは……」
「いっ、た!ちょ、何齧ってんだよぉっ!」
胸の飾りが快感で勃ち上がって尖っていたのを幸村が歯で齧りついた。
「すまぬ、ナッツか何かかと思ってな。ああ、噛んだせいで血が出てしまったか?」
「うそ?ちょっ、いっ…もぉ…や、あ…咥えないで…よぉ…。」
思いっきり噛んでしまった尖りを口内に含み、舌で労るように舐る。
「しははあるはひ」
「咥えたまましゃべんないでぇっ!」
声の振動が尖りに響き、佐助は下肢に熱が集まるのを抑えきれなくなっていた。
「ん、随分と奥迄垂れておるな…」
ブツッと些か乱暴に残りのシャツのボタンを外され、形の良い臍まで垂れたチョコを追うように舌が臍の溝迄くすぐるように移動する。
「も、やぁ…だんな…だっ……っ〜〜〜!」
臍の孔まで舐られ、すぐ下が布を押し上げている位屹立しているのがバレてしまうのも時間の問題かと思った時、幸村はスッと顔を離して佐助と面と向き合う。
「よし、これで無駄なく食べ尽くしたぞ?」
「あ…、ん……そう…だね。」
自分ばかりが感じて悶えてしまった佐助は、何も悪気も無く純粋に食べ物を無駄にしないようにとしただけの幸村の真っ直ぐな視線が痛かった。
「そんじゃ…旦那の涎でベタベタだから洗ってくるね。」
「ああ、そうだ佐助、この鍋のも食べて良いのか?」
「ん…冷蔵庫に苺とかマシュマロあるから…付けて食べてて。」
佐助は痛い程勃ち上がった下肢を発散させたくて、シャツのシミもそこそこにバスルームで一人空しく下肢を慰めた。
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「そう言う訳でな、佐助は風邪を引いてしまって休みなのでござるよ。」
「ふぅーん、ま、お前が元凶ってこったな。
」
「そう言われてしまうと身も蓋もござらぬな。」
佐助はあの後温いシャワーを一時間も浴び、熱を上げて寝込んでしまった。
そして、その一部始終を嬉々として話している相手は、苦虫を千匹はつぶしたような顔をした政宗だった。
「っつーかよ、そこまでしたんならさっさとやっちまえば良かったんじゃないか?」
「いえ、どうにも佐助の方がまだそこまで覚悟がないようでな…機が熟す迄は辛抱するでござるよ。」
「嘘だ…お前今の状況楽しんでるだけだろ?」
「政宗殿は人聞きの悪い事を申される。」
ニコニコと微笑む姿は遠巻きに見ているだけなら無垢な天使のようだが、政宗は知っている。
幸村はとんでもない食わせ者な上に無自覚ではあるが佐助に対してとことん猫を被ったドSだと言う事を。
「お前から告ってやる気はねぇのかよ?」
「某は何時でもその気なのだが…佐助がモジモジと恥じらって戸惑う姿をもう少し見守りたくもあるものでな。」
「ほんっと底意地悪いなお前。」
「いえいえ、双方の想いを存じていながら中立の良い人を演じておる政宗殿の方がとんだ喰わせ者でござるよ?」
「俺は…人の恋路に野暮はしねぇだけだ。」
「これからも佐助の良き相談者であって下され。」
「言われなくてもな。…ったく、流石にちったぁ猿に同情すんぜ!」
政宗の同情の声は佐助に届かず、額に冷却シートを貼った佐助は、いそいそと幸村に贈るチョコレート作りに勤しんでいるのだった。