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□星ニ願イヲ
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家の軒先に笹の葉が飾られ、思い思いの短冊が吊されるのを横目に、佐助は一人小さな包みを持って人気のない小高い丘へと向かった。

「あーあ、また今年もお願いしないとなんねぇのか。」

丘の上には一本だけ青々と茂る笹が生えていた。
周辺の生態系から外れた笹は、在りし日に佐助が植えたものだった。

「随分と立派に育っちまったな。」

風に合わせてサラサラと心地良い音を立てる笹の葉をゆるりと撫で、佐助は懐から一枚だけ短冊を取り出し括り付けた。

「よっと、」

その場に腰を下ろした佐助は、持ってきた包みを開く。
そこには幸村が一番好きだと誉めてくれた佐助手製の草団子。

「むこうの織姫さんと彦星だって年に一回は逢えるんだからさ、俺様達だって逢えてもいいんじゃね?」

ぶちぶちと文句を垂れつつ佐助は満天の夜空を眺める。

天の川が夜空を跨ぐように流れ、今にも地上に零れ落ちそうで、佐助は草の上に仰向けに寝転がって夜空を眺めた。

「わかってんだけどね…こんなの迷信だって。」

それでも佐助は毎年この笹に短冊に願いを記して吊す。

「真田の旦那ってば最初は『だんご』とか『ごはん』とか願いじゃなくて食べ物ばっか書いてたなぁ。」

それが何時しか『民の平和』を願い、『お館様の統べる国作り』を願うようになったんだっけ。

戯れに『俺様と永久に結ばれますように』とか書かないの?って聞いたら

『お前が共におるのは願いではない。』

なんて言われて俺様と共に居たいなんて願わないんだ?って拗ねてみたら…


『佐助とは、たとえ死が二人を分けようとも又出逢う。それは願いではなく必然だからな。』

思えば旦那は何となく自分の最期が近いのを察していたのかもしれない。

「まさか、あんなに呆気なく逝っちまうなんてね…。」

毎年城を抜け出し二人だけで天の川を眺めたこの丘に、佐助の隣に居る筈の主は夏の陣で散った。

「最期の最期ですんげぇ無茶振りしたよね?」

空いたままの隣に語りかける佐助は、幸村の最期の言葉を思い出す。


『俺の分まで生き抜けっ……頼んだぞ、佐助!』

「旦那の命令は絶対なのにさ…ひでぇよな。あんたの分まで生きたら百越えちまうよ。」

幸村の優しくも残酷な最期の命を受け、佐助は泰平の世を生き続けていた。

「戦がなきゃ忍はいつ命落とせるんだろうね?」

自ら命を落とす事も叶わない佐助は、せめてもと毎年短冊に願いをこめた。





『1日も早く旦那に逢える世に行けますように。』




「あんたがいないと…1日が長くてかなわないよ。」

今年の天の川も、最後は視界が滲んでよく見えなくなる。

瞳から溢れ出る涙は仰向けになっているせいで目尻を伝い、耳に入りむず痒いのもそのままに佐助は瞼を閉じた。


次に目覚めた時、自分が望む世になっているのを願いながら。

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