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□難攻不落
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上田への帰路、いつになく足が鈍る佐助は三里手前で足を止め、木の上で幾度目かの休憩をとる。

「はあぁ…」

佐助の口からは溜息ばかりが漏れ出す。

「なぁんでそうなるんだかなぁ。」

信玄の良からぬ無茶振りは何時もの事だが、今回ばかりは佐助の予想を斜め上に超えていた。




********

『と、伽って…!ちょっと待ってよお館様、いくら真田の旦那が女が苦手だからっていきなり男教えてどーすんのさ?』

いきなりの無茶振りに流石の佐助も異を唱える。

『佐助よ、お主の変化の術は里で右に出る者は居らぬと聞いておる。』

『まあ…そりゃ俺様優秀な忍ですから。』

『では、女人に化けるのなど朝飯前であろう?』

確かに、佐助の変化の術は優れており敵方への視察などでは女子供は勿論、老人まで多彩に化け、任務を遂行してきた。

『いや、いくら俺様の術が完璧だからって女子が苦手な旦那には逆効果じゃないんですか?』

『そこは儂が幸村へ文を書こう。『女人を抱けずして真の漢にあらず』とな。』

『まあ……お館様からの試練って言えば流石に無碍には出来ないだろうけど…』

『幸村を真の漢とするべく重要な任務、お主に任せたぞ?』

『もう……俺様がそう言われると弱いの知ってるくせに!』

『なればこそじゃ。』


一介の忍である佐助は、口先では給料分しか働かないだの給料を上げろと言うが、実は金には余り執着がなく、
真田家の万が一に備えて貯えている。

己が為より主が総てな佐助は、金子よりも主からの信頼が何よりの報酬であり、その証である「任せた」と言う言葉に滅法弱かった。


『ま、他ならぬお館様の頼みだし、やれる限りの手は尽くしてみますよ。』

『そうか、では幸村に文を書くので暫し待っておれ。』




********


「ったく、文と一緒に余計なもんまで持たせるんだから…。」

幸村への書状を書き終えた信玄の手には何故か大きな風呂敷包みが一つ有り、隙間から覗いていたのは細やかな刺繍も艶やかな緋色の着物。


幸村の(或る意味)初陣へと立ち向かう佐助への餞だった。





「ま、別に減るもんじゃないし……腹括るしかないのかな?」


さほど重くないはずの風呂敷包みが重く感じつつも、主の待つ城へと踏み出した。
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