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□チョコレイトは甘くない?
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『あ?チョコの作り方を教えろって?』
政宗が怪訝そうな顔をした向かいには、机に額を擦り付けて懇願する幸村の姿があった。
『うむ!明日はバレンタインであろう?毎年貰ってばかりでは対等ではないかと思ってな』
見た目は秀麗な幸村だが、中身はなかなか腹黒くムッツリ助平な上に佐助への執着が半端ないところが非常に残念で、政宗は文句を言いつつもつい面倒を見てしまう。
『大体毎年当たり前の顔で貰うだけとかどんだけ傲慢なんだよ?』
『そうだな…某のために毎年チョコを用意する佐助が健気な上に美味いと感想を言うと蕩けるような笑みを浮かべるのが可愛くて、つい甘えてしまっていたな… 』
『結局反省するふりして惚気てんじゃねーよ!』
ビシッとデコピンを一発お見舞いして再び机に突っ伏させると、少しは気の晴れた政宗はちょっと耳を貸せと手招きする。
『猿が泣いて喜ぶ特製チョコの作り方、教えてやるよ』
『まことか?!』
『まず、生クリームを沸騰寸前まで温める』
『うむ』
『そこに割った板チョコを入れてよくかき混ぜる』
『ふむふむ』
『よく混ざったら、アイツとヤッてる時を思い出す』
『なっ!なんと??』
『それでおっ勃ったナニを取り出してチョコを塗る』
『はっ!破廉恥ぃ……』
『後は適当にマーブルチョコやアポロでデコって完成』
『あの……政宗殿、本当にそれで佐助は泣いて喜ぶのだろうか?』
『あったり前だろ?大好きなお前がチョコごと食べてくれってんだから喜んでむしゃぶりついてくるに決まってるぜ?』
『わ、わかり申した………』
妙な所で純粋な幸村は、政宗のアドバイスを鵜呑みにしたのか、一目散に教室を飛び出して行った。
『政宗よぉ………去年は同じ様なの猿飛に教えてなかったか?』
小声ながらも聞き耳を立てていた長宗我部が呆れ顔で近付く。
『真田が実行する方に千円』
『あー俺も俺も!』
同じく大きな体躯を縮めて聞き耳を立てていた慶次が元気よく挙手する。
『つか賭けになんねぇだろコレ』
『それなら……明日猿が足腰立たなくて欠席する方に千円』
『そう来たかぁ。真田も休むに二千円!』
今年も賭けにならない賭けの対象にされているとは露知らぬ佐助は、かすがに頼まれ手作りトリュフ講習会を開かされていた。
『えっぷし!』
『どうした風邪か?』
『んー旦那がまた俺様の事惚気てるのかな?』
『潔いのは良いが気持ち悪い!』
『もぉー!冗談だって。あ、生クリーム は沸騰させちゃ駄目だからね』
『ああ。ところで佐助は今年は何をあげるんだ?』
『んー、このトリュフもあげるけど家に呼んで出来立てのフォンダンショコラも作ろうかな?』
『そうか…』
『かすがも早く上杉コーチの家に行けるといいな?』
『なっ!まぁ………そうだな』
『おや、随分と素直じゃない。やっぱ恋すると違うねぇー』
『うるさい!早く次の行程を教えろっ!』
『へいへい』
何だかんだで上手くいっている自分の幸せがかすがにもお裾分け出来る様に、願いを込める。
『 うぅぅ………何やら焦げ臭くなってきたぞ?』
普段料理は殆どしない幸村に、火加減など出来る訳もなく鍋の生クリームは完全に沸騰し、鍋の縁が茶色く焦げ始めている。
『チョコはこれ位で良いのか?』
大雑把に割ったチョコをグツグツと煮えたぎった鍋に放り込むと、カカオの香りがムワッと広がる。
『おお!チョコが溶けたぞ!そ、そうしたら………』
政宗に言われた通り、幸村は目を閉じて佐助の痴態を夢想する。
『やぁ………ぁ、も、そこぉ………ん、んっ!』
双方の両親公認の仲になったとは言え、大っぴらにエッチをする訳にもいかず、毎夜コッソリと佐 助の部屋に夜這いの様に幸村が忍び込んでは声を潜めて行為に及ぶ。
最初はどうにか押し殺している声も、何度か突き上げられて夢中になると、佐助の口から甘い嬌声を洩す。
昨夜もゴムを切らしてしまったので二回目は自制しようとした幸村に
『全部中に出していいから……』
と泣きそうな顔で強請られてしまい、更に二回中で出してしまった。
『うぅ………』
薄いながらも触り心地の良い胸の肉を揉むと、普段はハスキーな声が甲高くなり、中がギュッと締まるのも淫らで可愛らしい。
身も心もすっかり結ばれてから秋、冬と季節を過ごしたが、飽きるどころか抱いても抱いても底なし沼のように欲し てしまいたくなる。
『ん………さす、けぇ……』
デニムの前がすっかり窮屈になり、ジッパーを下ろしてみれば下着が伸びてしまいそうな勢いで屹立した陰茎をそっとつまみ出す。
『これに………かければ良いのだな?』
明るい所で己の陰茎を外気に晒すなど、破廉恥以外何物でもない行為だが、佐助が喜んだ上に自分を更に求めてくれるかもと淡い期待の前ではモラルの感覚も麻痺してしまう。
『しかし……佐助は本当に喜んでくれるだろうか』
甘いチョコレートを前に下肢を丸出しにしている異様な光景は、思考の麻痺した幸村も流石に我に返らせた。
『ええいっ!!成せばなる!!』
かき混ぜていたヘラでチョコを掬い、勢いよく勃ちあがった陰茎に降りかけた。
『〜〜〜〜〜っ!!!』
『旦那ぁ〜ただいまぁ…………あれ?』
かすがと作ったトリュフを一足先に食べさせようと幸村の家に寄ってみると、靴はあるのに姿がない。
『ん?これは…』
キッチンに甘さと焦げた匂いが漂い、テーブルの下には匂いの元になっているであろうチョコの入った鍋がひっくり返って落ちていた。
『まさか、俺様のためにチョコを?』
しかし喜んでばかりは居られないのは、この惨状を見るからに幸村に只ならぬ事態が起きていると予想がつくからだ。
『もしかして…手が滑って火傷したとか?』
水で冷やすとなると向かうのは……
『旦那っ!!大丈夫?』
『なっ!さ、佐助ぇ?』
浴室の扉を開けると、幸村は服を着たまま浴槽に腰掛け、下肢にシャワーを浴びせかけていた。
『どこ火傷したの?ちょっと見せてっ!!』
『だ、大丈夫だ、心配ない…』
『何隠そうとしてんだよっ?水膨れが出来たら大変なんだから』
慌てて股間を抑えようとした幸村の腕を掴むと、佐助は屈んで火傷の箇所を確かめる。
『あー、赤くなってるね。とにかく流水で感覚なくなるまで冷やした方がいいな』
よりによって何故陰茎にかかってしまったのだろう……佐助は昨年のバレンタインを思い起こす。
『旦那………チョコの作り方、教えてくれたの誰かな?』
『え、あ…その、政宗殿だが……?』
『もしかして、俺様にチョコ作りたいって相談した?』
『何故それを?』
『んーん、何となくね。それよりも冷やしたら白ワセリン塗ってあげるから』
『うむ……すまぬな』
『あと、熱が引くまでエッチはお預けだねぇ』
『えぇっっ!!!』
『や、こんな状態でシたら皮ズル剥けちゃうから……』
佐助を前にお預けなど、拷問以外の何物でもない幸村は今にも泣きそうな顔になる。
『その代わり、俺様の特製ショコラでお腹いっぱいにしてあげるから、ね?』
『ううぅ………』
『おっはよぉー!はい、竜の旦那にコレ』
佐助が登校するなり政宗に手渡したのは、あきらかに気合いの入った箱で中からは甘い香りが漂う。
『ha?昨夜はフライングでお楽しみしたお礼か?』
『さぁねぇ?ま、とりあえず感想聞きたいから一個味見してみてよ?』
蓋を開けると、シンプルながらも肌理の細やかなトリュフが綺麗に並べられている。
『こんなの俺に寄越したらアイツが嫉妬するんじゃねぇの?』
そんな茶々を入れながら一つ摘んで口に入れるなり、政宗はその場にしゃがみ込んだ。
『おい!政宗ぇ?ちょ、猿飛コレは?』
『もぉー大げさなんだからぁ〜。ちょーっとハバネロ刻んで入れておいただけなのに?』
『てめ………このクソ猿が……』
強烈な刺激に涙と鼻水が一気に溢れ出した政宗が悪態をつくが、喉の奥まで燃えそうな熱さで口内の水分が一気に蒸発してしまう。
『今度旦那に変な事教えたらぁ……片倉の旦那に色目使うぞ?』
『ばぁーか!アイツがテメェなんかの誘いに乗るかっての』
『そう?初なご主人様よりは色気出て来てる自信あるんだけどね?』
『このビッチが!』
『はは、残念ながら真田の旦那専用だけどねぇ』
すっかり逞しく言い返すようになった佐助のささやかな復讐を受けた政宗は、いい加減二人の相談役からの卒業を感じた。