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□苦くて甘い人
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「ちょっとぉ〜チカちゃんが余計な事言うから話拗れちゃったじゃん!」

「はぁ?別に俺は余計な事なんて言ってねーだろ?」

幸村が退出した後、ドッと肩を落とした佐助はそのままカウンターに突っ伏して項垂れ、恨めしそうに目線だけを上げて元親に絡む。

「俺はてっきりお前が宗旨変えしたのかと思ったんだけど、もしかして好みじゃなかったとか?」

「お馬鹿さん!俺様は昔も今もドノーマルのままですぅ〜」

「そうならそうと言えよぉ〜!長い付き合いのダチだからよ、例え佐助が男に走っても偏見なく応援するつもりだったのに」

「俺様はソノ気ないけどさ、あの子は……何でか俺様に惚れれてるっぽくない?」

「まあな……ありゃどう見ても口説いてるんだと思ったぜ?」

「でしょ?でもさ、どうも本人無自覚っぽいんだよね。出来ればそのまま勘違いだって思わせたかったのになぁ」

「そうか?俺はお前も満更でもないって顔してたように見えたけど……」

「んな訳ないでしょー?俺様がどんだけ女の子好きかチカちゃんが一番知ってるだろぉ?」

高校からの付き合いである元親は、それこそ佐助の彼女遍歴を一番近くで見守っていた1人だ。

「でもよぉ、お前顔でばっか選んですぐ別れてたもんなぁ」

「そりゃ……人間中身だし!」

「お前が言うと薄っぺらいなぁ」

なまじ遍歴を知られているだけにぐうの音も出ない。

「あんだけ情熱的にアタックしてくる子なんざ今までいなかったんじゃねーの?」

「まあ……ね」

どちらかと言えば追われるより追う方が楽しい性格な佐助は、それなりに好みの子でも、相手から言い寄られると引いてしまっていた。

「真田の奴、何だかんだで次の約束取りつけてたけど……どうするんだ?」

「んー、向こうさんの為にもこれ以上深入りしない方がいいんだろうね。個人的な連絡先は教えてないから店に電話来たらビシッとビジネスライクに対応するわ」

「ま、お前がそう言うならそうした方がいいのかもな」

「何だよチカちゃん、妙に突き放した言い方じゃね?」

「んー、俺としては真田はお前と合ってる様な気がするんだけどな?」

「またまたぁ〜!俺様をそんなにゲイにしたいのかよぉ?」

ぶちぶち文句を言いつつも、後日連絡が来たらキッパリとビジネスライクに立ち回れるのかと少しだけ胃と胸が痛んだ。





「おっはよぉー」

「あ、佐助さんおはようございます」

「引き継ぎ何かある?」

佐助は後輩で今日は早番の小介から送迎や予約の確認を引き継ぐ。

「えっとマミさんが出先から直行で二件目の真田様の所に回ります」

「え………?」

昨日の今日で??や、きっと一晩考えて俺様へは気の迷いだって気付いたのかな?

「佐助さん?」

「ん?あ、ああ了解。マミちゃんはそれでピックアップ?」

「はい、その前に武田様の所にアキさんを送って下さい」

「はいはい……」

ったく、師弟揃ってご利用ありがとうございますってんだ!

あれ?

俺…………何で苛ついてんだ?

これではまるで妬いているようで、佐助は妙な心地になる。


佐助がぼんやりとしていると従業員用の電話が鳴り、小介がサッと対応に出る。

「お疲れ様でーす………え?あ、はい……はい……あ、丁度交代ですけど、俺が行きましょうか?」

「どうした小介?トラブルなら俺様が行くよ?」

「や、何か真田様がまたキャンセルしたいって……」

「なっ!またかよ………」

「二回目なのでキャンセル料発生しますってマミさんが伝えたら全額返金したいけど女性と面と向かって話せないから佐助さんに来てもらえないかって……」

「おいおいおい……そう来たか」

「何かややっこしい客なら俺が行きますよ?」

「いや、多分俺様ご指名だから行ってくるわ」

「え?それなら尚の事ヤバいでしょ!」

まだこの業界に入って日の浅い小介なりにトラブルになりそうな空気を察し、佐助を案じている。

「大丈夫だって。別にトラブルじゃないからさ」

まだ幼さの残る小介の頭をクシャッと一撫ですると、不安を吹き飛ばすように白い歯を見せて余裕ぶって笑ってみせる。




小介の手前ああ言ってみせたが、幸村の真意は未だ掴めていない佐助は珍しく緊張していた。

この業界で仕事をする佐助は、大なり小なりトラブルに対面してきたし、質の悪い客に軟禁されそうになったり、怒りを収める為にわざと殴られたりもした。

今ではのらりくらりと傷つけない・傷つかない回避法を身につけたはずの佐助だが、幸村が初めてのケースだ。


「まさか女の子と出来なかったのを俺様のせいにされちゃったり?」

そんな逆恨みをするような男には見えなかったが、人間の真意なんてそうそう簡単には読めるものではない。

佐助は心とリンクして重い脚を叱咤し、アクセルを強めに踏んで幸村の家へと車を走らせた。
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