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□苦くて甘い人
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「ん……っ、く………ぐぅ………」
佐助の言いつけを守り、頑に瞼を閉じた幸村は長い睫毛を震わせ目尻にうっすらと生理的な涙を浮かべ、頬は少女の様に薄紅色に染め、形の良い唇を噛み締めている。
そんな清廉そのもののな表情とは裏腹に、下肢は佐助の手の中でじわじわと興奮の兆しを見せていた。
他人の陰茎を握るなど初めての佐助は、自分のやり方を思い出しながら興奮を引き出そうとするが、隣から手を伸ばした状態ではどうにも上手く扱けない。
しょうがない…
佐助は一旦手を離すと、ベッドの下に降りて腰掛けている幸村の前に向き合う様に座り直す。
「さ、佐助?」
気配が動き不安に駆られた幸村が名を呼ぶので、返事の代りに再度陰茎に触れて存在を示す。
「んあっ!ぁ………っ」
鼻にかかった甘い声が何とも艶かしく、佐助も妙な心持ちになる。
ちょ、勘弁してくれよぉ……俺様襲う気なんてサラサラないから!
自分に言い聞かせながら扱く手元をまじまじと観察してみる。
掴む手応えからして自分より半周りは大きいが、余り弄ってなかったのか穢れを知らなそうな綺麗な色をしている。
お店の子だったら嬉々としてアレコレ教えてあげたくなるだろうなぁ…
素人が相手だったらここまで純だとちょっと引かれちゃうかもしんないけど…
少しでも性への後ろめたさを乗り越えてくれればとの親切心以外にも、他の誰かより先に彼の知らない一面を見てみたいと言う独占欲が何処かにあるのを心の奥に押し込め、佐助は幸村を扱く手を早めた。
「あ、ぁ………あ、くっ、ぁ、も……ぉ……っ」
ニチャニチャと粘つく水音が佐助の手で奏でられ、幹を這う血管が下から脈打つ感触が限界を知らせる。
佐助はティッシュで受け止めようと見回すが、枕元まで距離があり届かない。
「あ、ぁ…………、さ、す……けぇ………っ!!」
仕方なく己の掌でしっかり囲み、周囲に飛び散らないよう受け止めた。
ドクドクと生暖かい飛沫が独特の匂いを放ちながら己の手に吐精される。
相当溜まっていたのか、掌では収まりきれずに指の隙間から白濁がこぼれ落ちる。
「………んっ、ぅ!」
吐き出しきったかと思い握る手を緩めた時、幸村が再度腰を戦慄かせ残滓を吹き出させた。
その飛沫は佐助の顔にまで飛び散り、頬と鼻先を濡らした。
「わっ!ちょ………」
動揺した佐助が慌てた声を上げたので幸村も瞼をあけると、目の前の光景に目を丸くする。
「さ、さ、佐助ぇ??」
手を己が吐き出した白濁で濡らし、顔にまで飛び散りこびりついている淫猥な姿。
それを自分がさせたのだと思うと、幸村の腰の奥がまたズクリと熱く疼く。
「はは、気持ちよかった?」
「んなっ!」
「ちゃんと答えて?」
少し茶化したかと思えば一転真面目な面持ちになった佐助に、逃げ出してはいけない空気を感じる。
「う、うむ………大変心地、良かった」
「そりゃ良かった」
正直に答えた幸村に、鼻の頭に残滓を滴らせたままの佐助がクシャッと笑みを見せる。
その瞬間、幸村は先程以上の興奮に心臓が一気に脈打つ。
「あ、とりあえず俺様手ぇ洗って来るからさ、旦那はもう一回シャワーで流して来な?」
「う、うむ……」
何事もなかったかのようにそそくさと洗面台へと向かう佐助の後ろ姿に、幸村は眠らせていた感情が目を覚ますのを感じていた。