メイン

□苦くて甘い人
13ページ/16ページ

安っぽいダブルベッドのスプリングを軋ませながら佐助がゴロゴロと寝返りを打っていると、風呂場から短い悲鳴の後、自分の名を呼ばれる。

「さ、佐助ぇ〜〜!!」

「んあ?どうした旦那?」

まさか風呂場に変なモノでも置かれていたのだろうか?

慌ててベッドから飛び起きてバスルームの扉を開けると、ムワッとした湯煙の奥でバスタブの中で泡にまみれた幸村がかろうじて顔を出している。

「あーあ、バスバブル入れてジャグジー付けたんでしょ?」

「な、何やら温泉の元かと思って入れたは良いのだが……うぐっ………手元のボタンを押した途端に泡が………」

ジャグジーで混ぜられたバスバブルはバスタブから溢れ出ていて、佐助の足元まで近付いて来ていた。

「とりあえず手元のスイッチ切って。今シャワーで泡流してやるから……………おわっ!」

「佐助っ!」

壁のシャワーホースに手を伸ばそうとした時、油断した佐助は足元に流れ着いていた泡で足を滑らせてしまった。

「うふぁっ!」

バシャンと水しぶきが飛んだので、てっきり顔面からバスタブに突っ込んでしまったかと思いきや、佐助の体に感じたのはお湯ではなく、泡まみれの固く熱い腕と胸板の感触だった。

「大丈夫か?」

「ん、あ………悪い悪い。ちょっと足滑っちゃった…」

バスタブの中で立ち上がった幸村が、転倒しそうになった佐助をしっかりと抱き締めたお陰でびしょ濡れになるのは回避出来た。

「いや、転ばなくて何よりだ」

「ん、転んでたら旦那のアソコに顔面突っ込んで大惨事だったかもね?」

「なっ!破廉恥だぞ佐助ぇ!」

「ひっ!」

軽口叩いた佐助に、思わず抱き締めていた腕を幸村が突っぱねてしまい、佐助は背中から浴室の壁めがけてぶつかると、そのままズルズルと尻餅をついた。

「ああっ、佐助ぇ?」

「〜〜〜っ、いったぁ!」

「す、すまぬ!怪我はないっ………うわっ!」

慌てて泡まみれのままバスタブから飛び出そうとした幸村が、佐助と同様バスタブに溢れ出ていた泡に足をとられる。

「ちょっ!」

ダンッと壁に両手を着き佐助の上に転倒するのは防いだが、尻餅をついた佐助の眼前は、泡にまみれた幸村の股間が占拠した。

「大丈夫か、佐助?」

佐助が慌てて顔を上げると、今度は頬を紅潮させて自分を見下ろす幸村の顔があり、つられて頬を赤らめてしまう。

「あ、大丈夫。ちょっとケツ打ったけど……」

「あ、泡、泡を落さねばな……」

「え、ちょ、えーーー?」

幸村は何を思ったのか、佐助が手を伸ばそうとしていたシャワーのカランを回す 。

「あ、す、す、すまぬっ!」

勢い良く降り注がれるシャワーの湯は幸村と佐助に降り注がれ、幸村の体に纏わりついた泡を流し、佐助は頭からバスローブごと湯に滴ってしまった。

「だぁ〜ん〜なぁ〜〜〜!」

「今止めるから待ってくれっ!」

「や、もう俺様もこのまま風呂入るからいいよ」

これ以上幸村が動くと更なる大惨事を生みそうなので、佐助は泡で転ばぬ様膝立ちでバスタブまで移動するとその場でバスローブを脱ぎ捨てて湯船に身を沈めた。

「旦那も一緒に入る?」

「あ、その……某はもう充分に温まったので上がる。その……ゆっくり入ってくれ 」

「へいへい。そんじゃ遠慮なく浸からせてもらうよ?」

本当は一緒に入って来たらどうしようかとヒヤヒヤしたが、幸村にソノ気は感じなかった。

「ま、あれで俺様に見られて興奮してたら………ちょっと引いちゃうけど」

至近距離で見た幸村の股間はごく平常時のモノで、佐助も目の当たりにしたからと言って別段性的に興奮しない自分に安堵する。

「あんだけ可愛い顔してたって立派なモンついてるしなぁ……」

興奮の兆しは見られなかったが、平常時で自分より半周り以上の体積はあり、佐助の男の沽券に関わる。


「いやいやいや、いくらご立派でもあのまま未使用なら正に無用の長物だし?」

やはり幸村には早く彼女でも作らせて一人前の男にしてやった方が良い。

親しくなった友として出来るのは、彼に相応しい子を紹介してやる事位だが、彼女に推してあげたい子が思い当たらない。

「だってさ………そこいらの子になんて旦那は勿体ないし…」

すっかり世話焼き小姑モードになった佐助は、自分の内に燻る感情を揉み消すべく思いつく限りの女の子を候補に上げてはバツをしていた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ