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□夏の恋はお疲れSummer
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「ほらよ、持ってけ」

ズシリと重みのある紙袋を些か乱暴に渡すと、小十郎は黙々とお茶の準備をする。

「何かいつもすまないねー片倉の旦那」

「それで………上手くいってるのか?」

「んー、お陰様でぼちぼちってとこ?なーんてね」

幸村との話を振られた途端ニヤニヤデレデレしっぱなしになる佐助に、半ば呆れた顔をする。

「ま、いつまでもグジグジされて政宗様の御手を煩わすよりは百倍マシだがな…」

主とよく似た応えに、思わず佐助が吹き出してしまう。

「何だ急に」

「や、ごめ………本当二人ってよく似てるんだなぁ って」

「あ?どう言う事だ?」

「俺もさっき似た様な返ししてたんだよ」

シンクロっぷりを目の当たりにされ苦々しい顔の政宗は、小十郎のいれたアイスシャリマティーをズルズル啜る。

「俺様も……二人みたいに旦那と通じ合えるようにならないとね」

まずはアイツの本性を知ってからだな。とは未だ言い出せない政宗が眉間の皺を増やすと、ソファの後ろに控えている小十郎も同じ様に考えているのか、眉間の皺が深くなっていた。

「小十郎、猿がトウモロコシ少し分けろって言うからよ、畑から収穫出来るか?」

「はっ!ついでに他の食べ頃な野菜も持って来ましょう。」

「え、竜の旦那?俺様そんなの………」

小十郎が部屋を出ると、政宗が一息ついて佐助を見据える。

「そろそろ、訓練に付き合った見返りの情報………聞かせてくれてもいいんじゃないか?」

「あー、やっぱ気になってたんだ?」

「当たり前だろがっ!………まぁ別にそれ抜きでも乗りかかった舟だから手伝わなくもなかったけどな。」

そんな突き放しているようで実は結構面倒見がよく甘い所がある政宗の一面に、思わず可愛いと言ってしまいたくなるのをグッと堪えた。

「俺様もそろそろ言おうかなーって思ってたんだよね。別に勿体ぶる情報でもないんだけど」

「おい!大した情報じゃねーのかよ?」

「んー、どうだろ?竜の旦那がどんだけ気付いてるかによりけりだけど……」

「何にだよ?」

「右目の旦那だよ。俺様と付き合ってるふりしろって言った時の顔見たって分かりそうなのにぃ」

「は?そりゃフリでも猿の相手はごめんこうむりたいだろうけどそれがどうした?」

「ちょ、何気に俺様超ディスられてない?」

「違ったか?」

「まあ、それも一理あるけど………そんじゃ、俺様の持ってる情報教えるけど、よーーっく考えてよ?」

「ああ………いいからさっさと言いな」

「あれは春前の事かな ?俺様見ちまったんだよ。」

「何をだ?」

「近道しようとして通った駅裏の風俗街んとこで右目の旦那を………」

「なっ!見間違いじゃねーのかよ?」

政宗の知る限り小十郎に女の影はなく、性的な匂いを決して見せなかった。

あの年で風貌こそ厳ついが男前で、大人の色香に溢れた小十郎を女が放っておく訳はないと頭では分かっているのに、どうにも結びつかなかった。

「そうだよね、でも片倉の旦那みたいな人、他にそうそういないだろ?」

「そりゃ……そうだけどよ」

「どうも接待っぽかったんだよね。一緒に居た男が自分の店だから遠慮するなって強引 にお店の女の子と一緒に中に引っ張ろうとして、そうしたらさ、片倉の旦那どうしたと思う?」

「店に………入ったのか?」

「入ってたら、どうする?」

「どうするもこうするも………そんなの小十郎の自由だろ……」

「そう?その割には眉間に皺寄ってるんだけど?」

「うるせぇ!それで本当はどうだったんだよ?」

「知りたい?」

「まあな……」

「すっげぇ気迫で引かれてた手ぇ振り払ってさ、深々と頭下げてこう言ったんだ『申し訳ないが、俺には心に決めた人が居るので、あの方以外に触れる気など毛頭ない』ってね……」

「ふーん… ……で、それは誰だよ?」

「誰かまでは言ってなかったけどさ、旦那は分からないの?」

今度は佐助が呆れたような溜め息をついて政宗の顔を見つめる。

「さあな。アイツは俺にはそんな奴が居る素振りを一切見せやしないからな……」

「そりゃそうでしょうよ……」

「つーか、その口ぶりは知ってるって感じじゃねーか?」

「え、だって分かんない?」

焦れた政宗は、佐助の茜色の髪を鷲掴むと、軽く前後に揺さぶる。

「まどろっこしいのは抜きだ!さっさと相手の名前を言いやがれ!」

「痛い痛い!!ちょ、毛ぇ抜けちゃうってば!」
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「てっぺん禿げんのが嫌なら早くしな?」

「だからぁ!竜の旦那が毎晩片倉の旦那にしてもらってる事思い出しなよ?」

「毎晩………?マッサージがどうした?」

「普通いくら主だからって高校生の男にオイルマッサージまでする?」

「まあ、普通はしないだろうな………」

「片倉の旦那は他の人にそういう事してる?」

「俺が知る限りは……ないな」

「それじゃあ……片倉の旦那が自ら進んで触れてる人は誰?」

「…………………………嘘だろ?」

「俺は少なくともそうだと思うよ?それに……今なら分かるけど片倉の旦那と真 田の旦那、時々同じ様な目ぇしてるんだよね。」

「どういうこった?」

「すっげー欲しがってる餓えた獣の目………?それをアンタに向けてるの、気付かれないように必死なんだもん。まあこれは外野じゃないと分からないかもね?」

「マジか…………よ?」

「竜の旦那は、嫌?それとも嬉しい?」

「そんなの、わかんねぇ………」

幼い頃から側に居て、自分の為に全身全霊を尽くしてくれるのが当たり前で、それでもストイックな小十郎が自分に対してそんな欲を抱いているのかと思うと、嫌悪感よりもゾクリと甘い戦慄が身体を走る。

「コレを注文しとけって言っ既にたらさ、既に用意してあっただろ?」

佐助は先程渡された紙袋を指差す。

「ああ、だけどそれがどうした?」

「や、これはあくまでも推測でしかないけど………俺様の事協力してくれた流れで竜の旦那も男同士の知識とか理解が深まっただろ?」

「まあな……」

「そこで、もしかしたら片倉の旦那の想いを受け入れてくれる時が来たらって期待して用意してたのかなーって……」

「はっ?それじゃあアイツがコレを俺に使う気だったのかよ?」

「や、わかんないけどね。でもさ………人って見かけによらないだろ?あんなに純で初だと思ってた真田の旦那だって結構いやらしい一面があって驚い たし」

「や、一面どころじゃねぇだろ?相当根深い破廉恥野郎だぞ!」

動揺から、つい幸村の本性を吐露してしまう。

「ん、前だったらそんなの旦那じゃない!って信じられなかっただろうけどさ、今はその………そう言うトコがあってもいいかなーって思えちゃうんだよね」

政宗の心配は杞憂のようで、佐助は既に腹黒い本性を抱えた幸村を受け入れる覚悟を決めていた。

「んだよ、黙ってて損したな」

「んーん、俺が気付く迄黙っててくれてありがと」

「Ha!別にそんなつもりはねーよ」

「だから、竜の旦那も後は自分で考えて……答え出してよ」

「わかったよ……」

まだ答えの纏まっていなそうな政宗が妙に儚げで、佐助は思わず頭をくしゃっと撫でて労った。

「お前に説かれる日が来るとは夢にも思わなかったな」

「へへーたまにはね?」

佐助が政宗の頭から手を離したのを見計らったように、控えめなノックが扉から鳴らされた。

「政宗様、お持ちしました」

「あ、ああ………遅かったじゃねーか」

「申し訳ありません。その………話が込んでいた様なので扉の外で待っておりまして……」

「それ、世間一般じゃあ盗み聞きって言うんじゃない?」

意外に冷静な佐助に反し、今 迄の話を聞かれていた事実に政宗は、今迄見せた事のない程頬を紅潮させて固まっていた。

「猿飛、てめぇがベラベラ喋るのがいけないんだろうが………」

「えー、俺様ばっかり上手くいっちゃあ悪いし、ここいらでひと肌脱いじゃおうかなーって思って。駄目だった?」

「俺は、一生告げるつもりはなかったんだが……」

「ちょっと待て小十郎。そりゃどう言う意味だ?」

小十郎の言葉に、政宗は地を這うような唸り声に近い声で問い質す。

「………言葉のままです。申し訳ございません。」

「何で謝る必要があるんだよ?」

「政宗様が疑わないのを良い事に、 貴方の為と言いながら疚しい気持ちをひた隠しにして触れていた事です。」

ほぼバレてしまっているからか、小十郎は潔く己の抱いていた感情を理路整然と暴露し出した。
まるで今日のスケジュールを淡々と報告するのと同じ様に…

「何で今迄言わなかった……」

「幼い頃に誓いましたよね?政宗様の側を離れないと」

「ああ、そうだったな」

「政宗様には明るい道をお歩き頂きたい。その為には…お伝えすべきではないかと」

「それで、俺が他のヤツと付き合ったりしても我慢してるつもりだったのか?」

「はい、それでも………側に居られるのなら構わないので」

己の感情を押し殺しても側に居続けようと覚悟を決めている小十郎に、政宗はいつになく動揺を隠せずにいた。

「竜の旦那……後は二人でちゃんと話し合いな?」

「お、おい!ここで帰るつもりかよ!」

「本当は見届けたいとこだけど、こういうのって二人きりの方がいいかなーって。あ、後でちゃんとどうなったか教えてよ?」

そっと政宗の肩を叩き、小十郎には不敵な笑みのエールを送った佐助は、紙袋と収穫してきた野菜を持つと、二人を残して部屋を出た。



「へへ………竜の旦那も上手くいくといいなぁ」

散々世話になった分、今度は自分の出来る応援や相談に乗りたいと願いつつ、貰った野菜を幸村に持って行こうと惚気モード全開に切り替えるとそそくさと家路へと急いだ。
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