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□夏の恋はお疲れSummer
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「あー、もう……ざまあねぇよなぁ」

自分の思い違いで幸村に迫って拒まれたのだと勘違いした佐助は、家に帰るなり風呂場に直行した。

「少し、頭冷やさないと……」

乱暴に着ている物を脱ぎ捨て浴室に入ると、冷水のシャワーを頭から被る。

冷え切った心とは裏腹に、身体の芯は熱を帯びたままな自分に腹が立つ佐助は、鼻から水が入り噎せるのも気に留めず冷水を浴び続けた。

「ったく……何で勘違いしちゃったんだか」

あれだけ思わせぶりな言動をされ、疎い佐助ですら満更でもないのでは?と自信が持てた矢先の拒絶だけに、自分の思い上がりを恥じてしまう。

「ありゃ……完全に嫌われたかな…」

学校で極力近付かないようには出来ても、漢祭は自分も補佐だから多少は顔を合わさざるを得ない。
只でさえ重責に苛まれている幸村に、自分のせいで余計な気を煩わせたくない。

なるべく影に徹して、必要以上に近付かないように補佐するには……

身体が冷え、少しずつ冷静さを取り戻した佐助が考えるのは、こんな時ですら一も二もなく幸村の事だけだった。

「嫌われても………迷惑かけないようにするから……勝手に想うだけなら、いいだろ?」

誰に許可を取るでもなく、自分自身に言い聞かせると、抑えていた涙が冷水と共に頬を伝う。

「……旦那ぁ……」


「佐助ーっ!!」

諦めきれずに小さく洩らした名前の主は、玄関からドタバタと喧しい足音と共に自分の名を呼び、その喧しい声は水音が響き渡る浴室にまで届いた。

「あら幸ちゃん。佐助なら今お風呂みたいだけど?」

普段なら先に部屋に上がるか居間で待つ幸村が、今日ばかりは分かりました。と佐助の母に言うなりズンズンと風呂場に直行していく。

「佐助っ!!」

間一髪で浴室の鍵を閉めた佐助は、幸村の意図が掴めず裸のまま為す術がなかった。

「ちょ、だ、旦那!何しに来たんだよ?」

はっきりと拒絶された上にわざわざ風呂場にまで押しかけるなんて……まさかそんなに怒ってるのかよ?

「話がある。だから早く此処を開けてくれっ!!」

薄いアクリル硝子の扉を
破壊せんばかりにノックされる。

「はあ?俺様まっ裸なんだから開けられる訳ないだろ?」

「構わぬ!!」

「旦那は構わないかもしんないけど、俺が構うっての!!」

そうだよな、俺の裸なんてガキの頃から見慣れてるんだから、今更何とも思わないんだよな……

やっぱり恋愛対象外って訳か……


「襲わない様自制するっ!!だから、しかと面と向かって話がしたい。」

「………ん?」

今……何て言った?

「お、襲わないよう……自制すると言った!」

「はい?お、お、襲う?」

幸村から飛び出した意外な言葉に、佐助は思わず声を裏返してしまう。

「先程は急に突き飛ばしてしまってすまなかった……だが、お前が嫌で拒んだのではない!それだけは誤解を解きたい。」

「じゃあ…なんでだよ?」

「だからっ、その……斯様に破廉恥な色香を振りまいている佐助を前に……自制出来る自信がなかったんだ!!」

「ちょ、何だよそれ?大体破廉恥な色香って……」

そんな自覚はまるでない佐助は、自分がそんなに物欲し気な顔をしていたのかと気恥ずかしくなる。

「お前はもう少し自分の持つ魅力を自覚せよ!斯様な色香を振りまいては流石の片倉殿とて紳士でおれるか分かるまい?」

「つか何でそこで片倉の旦那が出てくんだよ?」

「それ位佐助が魅力的だと言いたいだけだ!」

「な、ちょ………何デッカい声で言ってんだよ!」

いくら廊下を挟んでいるとは言え、キッチンには母親が居るのを思い出した佐助はそれ以上の睦言めいた幸村の弁を止めようと扉を開けて口を掌で塞いだ。

「は、はれ………ん、」

「本当に、片倉の旦那とはそう言うんじゃないから。な?」

「う、うむ…………」

冷水を浴びていたせいもあるが、口を塞ごうと触れた幸村の熱さに掌が溶けそうに感じる。

「自制って………何時迄するつもりだよ?」

自分の誤解を必死に解かれた佐助は、先程以上に物欲し気な顔をしているのを実感しつつカマをかけてみる。

「そ………れは………、お館様の試練を乗り越えるまで……だ」

「そっか、そうか………じゃあそんなに遠くないって事だよな?」

「ああ、漢祭を終え
…………伝えねばならぬ事を伝えた後だが……待ってはもらえるか?」

思いを伝えたも同然な睦言を囁くと、口を塞いでいたはずの佐助の掌を、幸村の唇が柔く啄む。

その感触だけで冷ましたはずの熱が身体の芯に再び点火してしまった佐助は、慌ててその身を引こうとするが、両手の二の腕を掴まれグイッと引き寄せられてしまった。

「あ、ちょ……旦那ぁ……」

「水浴びをしてたのか?夏とは言え風邪をひくぞ?」

自分の服が濡れるのも構わず佐助の痩躯をしっかりと抱き締め、体温を分けるように密着する。

「ん、大丈夫だって……旦那あったかいし…」

先程までの絶望感が一転、こんなにも幸せな気持ちで満たされるとは思ってもいなかった佐助は、甘えるように幸村の美丈夫な顔に頬を擦り寄せる。

「佐助…………」

熱を帯び潤んだ瞳が細められると、そっと佐助の唇に柔らかな感触が伝わる。

「ん…………、っ」

あー、旦那ってばこんなにアップで見てもカッコいいんだぁ。睫毛バッサバサ

口付けられているのに頭は妙に冴え、しげしげと自分に夢中で口付ける幸村の様子を伺ってしまう。

「ん……あ……、」

酸素を求めて唇を開くと、狙い澄ましたかのように厚い舌が歯列を割って中へと侵入してくる。

「んぬ………ぅ……んんっ……」

口内を容赦なく蹂躙する幸村の舌に自らの舌を絡め取られた佐助は、鼻から抜ける嬌声に、自分の声がこんなに甘ったるいのかと驚く。

「んはっ、さ……っす、け………ぇ」

散々舐った唇を離すと、二人の間に銀糸が伝う。

その淫猥な光景に、このまま好きにされてしまいたいと蕩ける佐助の期待を裏切り、幸村は唇を血が滲むまで噛み締めてゆっくりと身体を離した。

「え、あ………だんな?」

「今は、ここまでで我慢してみせる。言っておくが断腸の思いで堪えておるのだからな?」

また誤解されやしないかと必死に自分のやせ我慢を暴露する幸村が愛おしく、今度は自信を持って満面の笑みで頷いた。

「ああ、俺様も……今すっげーやせ我慢してるんだからな?」

「また………其の様に可愛い事を言うな!」

佐助の笑顔に我慢出来ず、離した身体を再び抱き寄せてしまう。

もう少し押したら抱いてくれるんじゃないかな?と邪な欲望をグッと堪えた佐助は、慈しむ様に広い背中に手を回し、子どもをあやすようにポンポンと叩いた。
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