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□夏の恋はお疲れSummer
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「それで………その子とは付き合ってるの?」
「いえ、先程申した通り某はまだまだ未熟者故想いを告げておりませぬ。」
「だったら……その子が他の人を好きって可能性もあるんでしょ?」
その言葉に反応したのか、佐助の手を握る幸村の手に少し力が入る。
「それは………あり得ませぬ。」
「何でそんな風に断言できるの?」
恐る恐る横目で幸村の様子を伺うと、体育館から佐輔達を見つめていた時と同じ笑みを浮かべていた。
「それは………たとえ他の者に気を向けようとも、必ずや某のものにすると決めております故。」
とんでもなく傲慢な物言いだが、佐助は幻滅するどころか、幸村の試合の時に見せる以上の獣じみた雄々しさに鼓動を高鳴らせている。
「ず、随分と自信があるのね?」
「いえ、そう自分に言い聞かせておるまで。本音を申せば、今は未だその者につり合う器ではなく、想いを告げることも出来ぬ腰抜けでする。」
不敵な笑みは一転、少しはにかみながら謙遜する幸村は、端から見ているだけなら花が綻ぶような笑みに惑わされてしまいそうになる。
「そうなんだ……何か惚気聞かされちゃって参っちゃったなぁ。」
「そ、そんな!惚気などではござらぬっ!」
急に頬を赤らめ語尾を裏返して動揺する姿は、佐助のよく知る顔なのに、テーブルの下では未だに自分の手を握って離さない幸村に、佐助は戸惑うばかりだった。
「真田君がそこまで夢中な子なんだから、すっごく可愛いんでしょうね?」
「えと……その、…………そうでござるな。」
照れながらも肯定した幸村は、佐助の手を握る掌がじっとりと汗ばんでいく。
こんな態度されたら………俺様期待しちゃうんだけど?
「どうした佐助、お前まで顔が赤いぞ?」
佐助が助けを求めていた時は何も察してくれなかったかすがが、こんな時だけ微妙な変化を察して来る。
「そ、そうかな?この店冷房弱くない?」
塞がれていない方の手でわざとらしく顔を扇ぐが、どこからどう見ても不審な態度なのは否めない。
「そうか?私は半袖だと寒い位だが。」
「あっ……そう。」
今の佐助には上手い返しをする余裕などなかった。
もしかしたら、幸村の惚気ている相手は自分なのでは?
今しっかりと握られている手の感触から、鈍い佐助も流石に悟る。
「そ、そうだ!俺様用事思い出したから、そろそろおいとまするね?」
これ以上この場にいては、思わず幸村への想いを人目も憚らずに吐露してしまいそうな位感情がコントロール出来なくなりそうな佐助は、退散しようと椅子から腰を浮かす。
「それなら俺も一緒に帰ろう。」
「何言ってんだよ!旦那まで帰ったら失礼だろ?」
立ち上がろうとすれば離すかと思った幸村の手は、逃がすまいと更に強く握りしめてきた。
「いいよ、猿飛君。私の用はもう済んだから。」
「先輩………」
「何か、お邪魔しちゃったみたいでごめんね?」
恋敵?ではあれど少なからず傷ついているだろう彼女に佐助が謝ると、グリッと握られた手に力が入り、思わず幸村の方を振り返ってしまう。
「これ以上俺を妬かせるな。」
「え?今、何て言った?」
空耳かと聞き返してしまうと、幸村はぐっと咽を詰まらせガバッと席を立つ。
「ちょ、痛いっ!痛いってば!」
手を繋いだままな佐助も引っ張られてしまい立ち上がると、かすが達の眼前にその様を晒してしまう。
「お前達!テーブルの下で何してたんだ!!」
「や、これは……その…………何だろね、旦那?」
「こう言う事なので、ご承知下され。」
「こう言う事ってどう言う事だよっ?」
しどろもどろな佐助に対し、幸村はさも平然と応える。
「これ以上騒ぐと悪目立ちするからさっさと帰れ!」
かすがの言葉に周囲に目線を移すと、近隣の学生やカップルなど皆一様に二人のなりゆきを見守っている。
良い意味でも目立つ風貌の二人が、ガッツリ手を繋いで何やら騒いでいたらつい見てしまいたくもなるのだろう。
「それじゃお先に!」
離さない手をそのままに、今度は佐助が幸村を引っ張るようにして店を出て行った。
「………あの、先輩……これはですね……」
「いやぁあああ〜!やっぱりそうなんだぁ?」
「?はい?」
てっきり振られた形になってしまった先輩から嫌味の一つでも言われるのを覚悟していたかすがは、先輩の色めき立った声目を丸くする。
「や、実はね、一部の友達とね真田君と猿飛君ってそうなんじゃないかって噂があるってのは聞いてたのよ。いやぁあ、ナマで見てもあんだけカッコイイならアリだわぁ。」
「えと、あの二人が………どんな噂で?」
「またまたぁ〜!最初猿飛君に電話してもらった時かすがちゃんも真田君には心に決めた人がいるって言ってたじゃない?あれ、猿飛君なんでしょ?」
「な、何でそれを?」
「だってぇ、あんだけカッコイイ二人がイチャイチャしてたら噂にもなるわよ!」
生まれた頃より見慣れているだけあり、かすがは二人がそこまで目立つとは思ってもいなかった。
「でも、先輩は真田の事………いいんですか?」
「んー、恋愛対象ってよりは萌の対象だったからなぁ。」
「も………萌??」
「あ、かすがちゃんはそう言うの知らないよね?ごめんね。もしも嫌じゃなかったら教えてもいいけど……」
至極全うに生きて来たはずのかすがが、イケナイ世界の扉を開くのは時間の問題だった。