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□夏の恋はお疲れSummer
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「それじゃ、ありがとうね竜の旦那に片倉の旦那。」

家の側まで送り届けられた佐助は、車を降りる間際に改めて2人に感謝の言葉を告げた。

「ああ、お前が決めたならとっとと突っ走れ。明日はヤリ過ぎの腰痛で欠席してるといいな。」

「ばーか!まずはちゃんと告白からするっての。」

「告ったら有無を言わさずに上に乗っちまえよ。」

それだけ言い残すと、反論は聞かないとばかりに政宗を乗せた車は急発進してその場を後にした。

「ったく。」

決意が萎えない内に幸村に会いたいが、部活を終え電車で帰って来るとしたらまだ時間はある。

「しょうがない。迎えに行くとしますかね。」

自宅で一対一で話したら、自分がとんでもない行動に出てしまいそうな気がしてならない佐助は、人目のある所でまずは誤解されているかもしれない小十郎との関係を冷静に釈明したかった。

「遅いな………。」

いつもなら部活が終われば寄り道などせず真っ直ぐ帰って来る幸村が、通常の帰宅時間を二十分過ぎても駅に姿を現さない。

「あ、猿飛ぃ〜!さっきのお迎え見てたぞ?お前伊達のボディガードとどんな関係なんだよ?」

幸村の部活仲間が佐助を見つけるなり駆け寄り、先程の一件を問い質してきた。

「あー、別に何でもないって。それより真田の旦那は?」

「あ、そうそう!真田も一大事だぞ!隣りの女子校のすっげぇ可愛い子に呼び止められてそのまま一緒に帰ってんの!」

「その子って……金髪の子?」

「そうそう!」

かすがが何で真田の旦那を?

「そこのマックに二人して入ってったけど……もしかして真田の彼じょ……って、おーい!」

問い掛けに応える間もなく、佐助は彼が指差したファーストフード店に一目散に走り出した。


「いらっしゃいませー!」

店に入ると注文カウンターを素通りし、二人の姿を忙しなく探す。
すると程なくして目立つ容姿の二人が向き合って座っているのを発見する。

「だ………っ」

佐助は幸村に声をかけようとするが、かすがの隣りに座っている人影に気付き声を詰まらせる。

かすがと同じ制服を着た、栗色のサラサラのロングヘアがよく似合う可愛らしい子。
きっとこの前電話で幸村に好意を寄せていると言っていた部活の先輩だと予想がつく。

幸村は背をこちらに向けていて表情を伺い知ることはできないが、普段なら女の子と面と向かうのすら破廉恥だと逃げ出してしまう幸村が会話に応じている。

それだけでも佐助にとっては衝撃だった。

やはり男の自分より、真田の旦那には可愛い女の子が隣りに居る方がよく似合う。

そんな現実を突きつけられてしまい、大人しく声をかけずに撤退しようとするが、

「佐助、どうしてここにいるんだ?」

かすがや幸村同様、人込みの中でも目立つ方な佐助は、かすがにあっさりと見つかってしまった。

「あー、えーっと、その………偶然だなぁ〜、あれ?真田の旦那まで一緒なんだぁ?」

あからさまに空々しい嘘だが、他に上手い言い訳が見つからない佐助は三文芝居を通す。

「何だ、片倉殿と一緒ではないのか?」

一見穏やかだが、長い付き合いの佐助にはその口調に含まれている刺々しさがひしひしと伝わって来る。

「あー、片倉の旦那には家まで送ってもらっただけだって。」

「そうか。」

幸村はそれ以上言及してこなかったが、まだ誤解は解けていないのだけは確かだった。

しかし流石にこの場で弁解する訳にもいかず、居たたまれない佐助に、かすがが助け舟を出す。

「店も混んでいるようだし、そこに座ればどうだ?」

「んー、そうさせてもらおっかなぁ。」

本当は今すぐにでも逃げ出してしまいたいが、この場を去れば目の前の女の子に敗北してしまいそうな気がしてしまい、わざと空気を読めない男に徹して居座る事にした。

向かいの女の子はあからさまに顔色を曇らせているがそんなのは気にしない。

大体自分が好きな男の友達が乱入して来たからってそんな態度を取るような女に旦那は渡せない。

「佐助、何か注文して来たのか?」

「んーん、まだー。先に席空いてるかなーって探してたとこだったし。」

開き直った途端に佐助の口は軽妙になっていく。

「ところでさ、旦那がこういうとこ来るの珍しいねー。」

「ああ、かすが殿に帰りがけ呼び止められてな。某に会わせたい方がおると言うので……。」

元々無骨者な幸村も、女性陣への配慮なんてものは持ち合わせていないのか、あっさりと事の成り行きを説明する。

「へぇ〜そうなんだぁ。それでそちらの彼女が会わせたい子?」

「ああ、私の部活の先輩だ。」

「初めまして、山元と言います。」

当たり障りなく形ばかりの挨拶をしてくる女に反して、佐助はニコニコと愛想を振りまく。

「俺様は猿飛佐助って言いまーす。二人とは赤ん坊の時からの幼なじみなんだ。」

「そうなんですか。」

「真田の旦那の事なら俺様に聞いた方がいいよ?多分旦那自身よりよーーっく知ってるから。」

「随分と仲が良いみたいですね?」

みたいじゃなくって良いんだよ!少なくともぽっと出のあんたよりはね?

とは口に出したりせず、あくまでも良い人に徹しておく。

「まーねー。ねー旦那?」

「ああ、そうだな。」

「それじゃあ、真田くんの好きな人について教えてもらえないかな?」

「好きな……人?」

「ええ、かすがから心に決めた人がいるとは聞いているけど、具体的にどんな子かなって。」

「えと………それは………っ、」

「あら?流石に仲良しでもそこまでは知らなかったかな?ごめんなさいね。」

言い淀んでいる佐助を嘲笑うような厭味を返され、思わず言葉に詰まる。

「そう言う事でしたら、佐助ではなく目の前にいる某本人にお聞き下され。」

「旦那…………っ!?」

少し俯き気味だった幸村は一転試合に挑む時のような覇気を漲らせ、かすがの先輩に面と向かう。

「某はまだまだ未熟者故、武道の道を極めるのに全神経を注いでおりまする。」

「知ってる。だって真田君の試合見て貴方に興味を持ったんだから。」

「かすが殿からお聞きになられた通り、某には心に決めた者がおります。」

幸村がそう言い切ると同時に、佐助は膝の上に置いていた手に重みを感じた。

『えっ?』

それは隣りに座る幸村の手で、テーブルの下で見えはしないが、しっかりと握られている。

『え?ええええ?』

幸村の意図が掴めず、顔を見てしまったら動揺を隠せなくなりそうで、必死に向かいのかすがの方に助けを求め縋るような視線を送るが、完全にスルーされてしまった。
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