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□苦くて甘い人
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大の男がテレビの前で二人並んでAV鑑賞となったまでは良いが、幸村は顔こそ正面を向いているものの、画面から目を逸らしているのは横目で見ていても明らかだった。
「俺様さー胸より足が綺麗な子が好みかなぁ?旦那は?」
「う、あ、そ、そうだ…な…………………その、よく分からぬ」
重苦しい空気を打破しようと佐助はカラッとした態度を崩さないように徹しているが、男女の濡れ場に興奮するでもなく、苦行に耐えるような表情の幸村を前にすると多少良心の呵責に苦しむ。
「あー…ちょっと俺様ムラムラしてきちゃったかもぉ」
性的な興奮は誰でもあって決して後ろめたいものではないんだと幸村はもっと知るべきで、まずは自分が先陣を切って示してみれば良いのでは?と佐助が動きだす。
「そ、そう……なのか?」
「んー、最近自分でするのもご無沙汰だったしねぇ。あ、旦那は自分でする時は何をオカズにしてるの?」
「……………おかず?」
そこから教えるのかよ!と内心突っ込みつつも、いやらしくなり過ぎないようにサラッと教える。
「勃ってどうしょうもなくなったら旦那だって自分でするだろ?そん時何かしら見たり妄想したりしない?」
「そ、それは………………」
「男ならみーんなエロい事考えるんだからさ、旦那がどんな妄想したって引かないよ?」
健全な若い男ならば当たり前の性への興味や妄想を、幸村がどれだけ持ち合わせているのか正直興味があった。
「普通は………其の様にして致すのか?」
幸村は俯き膝の上でギュッと両拳を握りしめる。
「へ?」
「その………某、学生時代は寝入る寸前まで鍛錬を積んでおって、佐助や級友が申す様な欲望が溜まる暇がなくてな………」
「そ、そう、なんだ」
武道に一途だったとは聞いていたが、まさかそこまでとは……
「社会人になり、昔程鍛錬に時間を割かなくなってからは……下肢が重苦しくなる事はあるが………」
「その時は、どうしてるの?」
「………特に何も考えずに、排泄作業として擦って吐き出させていたのだが………それではおかしいのか?」
まさか………ここまで穢れてないなんて俺様だって想定の範囲外なんだけど??
動揺から言葉に詰まった佐助に、幸村は瞳を揺らして不安げに見つめてくる。
「佐助?」
「そ、そんなの人それぞれだし……別におかしくなんてないよ。だけどさ…」
「だが、何だ?」
「この先、誰かを好きになったらさ…ちゃんと欲情出来る?」
「なっ!そ、それは………」
「大事な話、女の子だって性欲はあるんだぜ?それなのに旦那がソノ気になってくれなかったら辛いと思うけどなぁ…」
「うう…………」
「ずっとソッチの話から目を逸らして来たんだから仕方ないけど、そろそろ向かい合う時じゃない?」
「そう………だな。某は、ずっと性欲と正面から向き合うのを逃げていたんだな………情けない」
心底悔しそうに拳で自分の膝を叩く幸村は、眉間に皺を寄せ、今にも涙を流しそうな顔をしている。
ああ、旦那にはずっと笑ってて欲しいのに……俺様がこんな顔させちまってる。
今にも泣き崩れてしまいそうな幸村を前に、佐助は自分が出来る事を必死に探す。
「そうだ………」
「何だ?」
「旦那、いいから目ぇ閉じて?」
「な、何故だ?」
「いいから………」
佐助の必死の形相に幸村も気迫負けし、大人しく瞼をギュッと閉じる。
「なっ!」
閉じた途端、腰に巻いていたバスタオルの合わせが割り開かれると、細く長い指がまだ柔らかな幸村の陰茎を捕える。
「こら、目ぇ瞑ったまま!」
「だ、だが…………」
「テレビの声に集中して、俺様の手を女の子のだと思ってみなよ?」
佐助の突然の申し出に、幸村の脈拍は試合の時以上に大きく脈打ち、身体は硬直して身動きの取れない状態となっていた。