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□夏の恋はお疲れSummer
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「昨日はついにエネマ入れてみたんだけど、やっぱりいきなりは難しいね。全っ然気持ち良くないし違和感しかないっつーか。」
幸村には内緒の特訓?を開始して早四日。放課後は建前の宿題を政宗の家で片付けつつ、本題の特訓の成果を報告するのが定番になりつつあった。
「そりゃ本来の用途に反してるんだからな。違和感あって当たり前だろ?」
「それもそうだよね。いきなり気持ち良かったら俺様完全にゲイだもんね?」
「や………それ以外の何物でもないだろ?」
「やだなぁ、俺様本来ノンケだもん!今でも女の子は可愛いなーって思うし。」
「それじゃ真田は何なんだ?」
「だから、旦那が別格なの!」
佐助が幸村を意識したのは中学頃だと聞いたが、幸村は物心ついた頃から佐助だけを狙っていると聞いているだけに、何故佐助が気付かないのか不思議でならない。
「なあ、お前は真田が誰かを好きになったとか今まで聞いた事ないのか?」
「真田の旦那は知っての通り武道一筋の熱血馬鹿だし、純情過ぎて女の子が苦手だーって近寄らせなかったんだよね。下手したら初恋もまだなんじゃないかな?」
いや、俺の読みでは他の女なんか眼中になくって、寧ろ猿に余計な虫が付かない様追い払う口実で女を塚寄らせなかったんじゃないだろうか?
遠からぬ推測をぶつけてしまいたくなるのを今日もグッと踏みとどまっていた。
「少なくともぽっと出の面識のない女の子よりは付き合いも長いし、信頼されてるって自信はあるけどさ、恋愛は別ベクトルだもんね。」
「わかんねぇぞ?アイツは自分で認めた奴以外テリトリーに入れないからな。少なくとも今一番アイツのテリトリー内に居るのはお前じゃないのか?」
「そ、そう?そっかな……やだなぁ、そんな事言われちゃうと少しだけ期待しちゃうだろ?」
「いいんじゃないのか?少なくともそこいらの女子よりお前の愛情のが重くて深いぞ?」
「それ……褒められてる気がしないんだけど?」
それでも政宗なりに発破をかけてくれているのを承知している佐助は、拗ねた素振りを見せながらも笑顔に曇りはなかった。
「今日も遅くまでごめんね。」
「別に構いやしねぇよ。宿題片付けるついでだ。」
「そうだね。そんじゃまた明日!」
明日はどこまで特訓が進んで来るのか……最初は惚気に近い相談に辟易としていたが、自分の身体を自然の摂理に反して開発してまで幸村を自分のモノにしたいと奮闘する佐助の一途さに絆されてしまっている。
「ん、誰だよこの時間に………げっ、アイツかよ!」
尻ポケットに入れていた携帯が着信を知らせ、液晶を見てみれば、今一番会話をしたくない男の名前が表示されていた。
今口を開けば、腹黒なこの男を罵りたい衝動を抑えきれるか自信が無い。
政宗はゆっくりと深呼吸をしてから通話ボタンを押した。
「何だよ。」
『おお、政宗殿!いきなり何だよは無礼ではないか!』
「お前に祓う礼儀なんざ持ち合わせてないんでね。用がないなら切るぞ?」
携帯を少しだけ耳から外すと、喧しい程の大声でお待ち下され!と叫ばれる。
「どうせ猿絡みの話だろ?」
『流石政宗殿。してここ数日の夏休みの課題を名目にしてお二人で何をされておったのだ?』
お、意外と直球に聞いて来たな?
宿題以外の何かをしているのは察していながらも佐助本人にはすっとぼけてる辺り本当に腹黒くて質が悪い。
「別に、お前のいないとこでアイツが何しようが自由だろ?大体お前は猿の彼氏でも何でもないんだからよ。」
佐助の特訓に付き合い、何も知らずに幸村を振り向かせようと努力する
一途な姿を見せられ、政宗は二人の中立を保つのがしんどくなっていた。
『そこを突かれると某も痛うござる。出来る事ならば1日も早く彼奴には某のものであると伝えねばばりませぬな。』
「その気があるんなら何でさっさと言ってやるなり行動するなりしてやんねえんだ?」
『それは…』
「猿の覚悟が決まるまで……とかいつまでも余裕こいてると、どうなっちまうかな?」
『それはどう言う意味でござるか?』
いつもの甲高い声は形を潜め、地を這うような声は少なからず幸村の動揺を示している。
「さあな。とにかく、いい加減覚悟を決めるのはお前の方じゃねえのかって事だ。」
幸村からの返事を聞く前に携帯を切ると、何回か幸村がかけ直して来たが全てフルシカトした。
「政宗様………」
「何だ小十郎。立ち聞きなんて随分と野暮じゃねえか?」
「申し訳ございません。」
両手に篭一杯に収穫した夏野菜を抱えている小十郎は、すぐ側の畑から屋敷に戻る所だったのだろう。
「まあいい。別にお前には聞かれても困らないからな。」
「はあ………ですが政宗様。先程の言い方では、真田にあらぬ誤解を生じやしませんか?」
「いいんだよ、あの腹黒野郎には少しお灸が必要だ。」
「しかし、政宗様が逆恨みされてしまっては………」
「さあな。そうだ小十郎、お前にもひと肌脱いでもらうぞ?」
「一体何でしょう?」
小十郎の心配をよそに、政宗は携帯を再び取り出すとアドレス帳からさっき帰ったばかりの佐助へと送信する。
「おう、今電車か?ああ、じゃあ大丈夫だな?とりあえず手短かに伝えておく。」
『どしたの?』
「訓練の追加だ。明日から小十郎と付き合うって事にしろ。」
『「はぁ???」』
電話口の佐助と、真横にいた小十郎が奇しくも驚きの声がハモった。