贈答品2
□拝啓、クソ親父殿
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1年ぶりに見上げた看板は以前と変わらず洒落っ気もねえなと思う
街角にひっそりと佇むその店に、あの懐かしいクソ親父はもういねえ
俺はあの親父に結局何も見せられねえままだった
だからといって悔んじゃいねえ
今の俺にあったら、きっとあの親父のことだ
お前が教師になったのかと、涙流して大笑いして……………きっと褒めてくれるに違いねえ
懐かしい看板を見上げながら、俺は10年以上前のあの日のことを思い出していた
うちの1年坊主が他校の連中に拉致されて、呼び出された港近くの空き地
一人で出向いた俺を待っていたのはフザケタ人数の野郎共だった
どうやら各学校が勢力争いをする前に、目障りな神蘭をとりあえず先に潰そうっていういくつかの学校の連中が組んでの謀らしい
10人やそこらならどうにでもなるだろうと思っていたんだが……
流石に人質までとられて30人超えるってのは予想を超えてたなと内心舌打ちをした
今回はやばいんじゃねーか
そう思った時、バイクの爆音鳴らして現れたのは、ちょっと気に入らねえ同級生とやたら面倒くせえ先輩
窮地で二人の顔を見てちょっとホッとしたなんて、俺は死んでも言わねえけどな?
まぁ、おかげで思う存分暴れて馬鹿共に、二度と俺達にちょっかい出す気にならねえようにしてやることができたのは間違いねえだろう
3人相手にあの人数でボコボコにやられてたら世話ねえ
第一『普通』の不良やってる俺と違って、不思議と『裏』にも顔の効く先輩や、馬鹿みてえに仲間の多い同級生を本気で敵に回す奴は相当の馬鹿だ
「由紀、何ひとりでカッコつけてるんだよ」
「バーカ…………別に、んなわけじゃねー」
「どうだか?それじゃ、明日屋上でな」
人質にとられてた後輩をバイクの後ろに乗せて去っていく先輩の背中を見送っていると、肩にポンと手を置かれた
振り返ると、今まで殴り合いをしていたとも思えねえ程爽やかな笑顔を浮かべた同級生、桐沢が立っていた
「それじゃ俺らはいつものとこに行くぞ」
「はぁ!?…………別にいい」
肩に乗せられた手を払い落とすと、今度は腕を掴まれた
ホントにこいつはどれだけ世話焼きなんだろうかと思う
「何言ってるんだ…………ったく、そんなわけにいかねえだろう」
「おいっ!俺は別にいいって言ってるだろうがっ」
不本意な連れに無理矢理掴まれていた腕を力任せに振り払うと、ビリッと嫌な音が聞こえた
既に解れて悲鳴をあげていた制服の肩がついにギブアップしたらしい
「ほらな、良くねえだろ?」
「ったく………お前が引っ張るからだろうがっ!」
「元々さっきので半分取れかかってただろ?グダグダ言ってねえでさっさと栗原のおやっさんとこにいくぞ」
世話焼きの桐沢は、まるで俺がついて来るのが当然だとでもいう風に前を歩いていく
いいなりになるのも癪だが、どっちにしても制服をこのままにしておくわけにいかないのも事実だ
先公はともかく、万一お袋に見つかっちまうと色々と煩くてかなわねえ
結局先を歩く男のあとを追うようにして、俺は歩きなれた道を歩いていった