不死鳥の部屋

□不死鳥伝説ーその鳥がはばたく時ー4章
2ページ/4ページ

その頃、病院には眠り続けるエスメラルダと、見舞いに来ていた沙織の姿があった

連日の付き添いで疲れたのか沙織は眠りこんでいた

ふと、何かを感じて一カ月ぶりにエスメラルダは目をあけた

ゆっくりと上体を起こしてみたものの、まだ意識がはっきりせず体中に痛みを覚えた

聖域での戦いから何日たったのか、ここが何処なのかは分からなかった

しかし、沙織や一輝がずっとついていてくれたことは2人の小宇宙に包まれていた感覚で分かった

それにしても、どうも様子がおかしい

部屋の中を見渡してみると、どうやら病院の集中治療室かそれに近い病室であろうことが分かる

にもかかわらず、医師も看護師も全く姿がみえない

というよりも動く気配が感じられないのだ

大きい病院であるように思えるのに、建物全体が静まり返っている

「何が、あったのかしら…」

痛む体を無理やりベッドから引きはがして立ちあがろうとすると脚にうまく力が入らない

一か月も寝たきりだった体は聖闘士である彼女の体力も筋力もかなり失わせていた

通常であれば歩くのにもリハビリを必要とする状態なのだろうが、そこは聖闘士である

エスメラルダはふらつきながらも立ちあがり、病室の扉を開けた

扉の間から廊下を見ると、昼間なのに妙に薄暗い廊下にぼんやり光るものが見えた

よく見ようと廊下に出た彼女は、はっとして後ろ手に自分の病室の扉を閉じた

穏やかだが殺気を含んだ小宇宙を感じたのだ

『聖闘士?まだ敵対する聖闘士がいるというの?』

と思ったが、その光…いや人物が間近に迫った時、彼女は小さく息をのんだ

そしてその場に思わず座り込んでしまった

「そ、それはもしや鱗衣…海魔女の?あ、貴方は海将軍なの?!」

その男は些か驚いたように目をみはって、軽く口の端をあげて笑顔をみせた

「おやおや、まだお目覚めのお嬢さんがいらっしゃるとは!
 皆さん私の笛でお休み頂けたかと思いましたが…
 しかも海将軍をご存じとは、貴女はどなたなのでしょうね?」

優しく微笑む顔はとても敵とは思えなかったが、殺気は消えていなかった

病室内に自分の聖衣箱がなかったことを思い出し、エスメラルダは内心舌打ちをした

「…海王の海将軍がこんなところへ何をしにいらしゃったのでしょう?
 まさかとは思いますが…アテナにご用事なのかしら?」

途端に男の微笑みは冷笑へと変貌した

「ほう…アテナをご存じ…なるほど
 あなたは彼女のご友人かな?」

熱を持つ体を気合いで立たせると彼女は笑いながら答えた

「友人?ええそうね、私は彼女の友人よ
 そして…それと同時に彼女を守る聖闘士
 私は兎座のエスメラルダ!
 貴方の目的は何?アテナの命を奪いに来たとでもいうの?!」

問いかけるエスメラルダに男は向き直って答えた

「ほぅ…私は知らなかったが、アテナの聖闘士には女性もいるのか?
 私は海魔女のソレント…アテナのお命を頂きに来た
 無用の殺生はしたくない、エスメラルダさんそこをどきなさい」

あくまでも笑顔を浮かべたまま言葉を続けるソレント

ふらつく体を壁に預けてエスメラルダは心底可笑しそうに笑った

「ふふ、聖闘士がそんなに簡単にアテナの命を渡すと思って?
 アテナの、沙織さんのことは私の命にかえても守ってみせるわ!!」

しかし言葉とは裏腹に彼女の心は悟っていた

『今の私ではきっと守り通せない…
 相手が海将軍ということは黄金聖闘士レベル…強すぎる
 私には今、聖衣すらない
 せめて一輝が来てくれるまで持たせなくては!!』

その決心で、彼女はいきなり技を繰り出した

「フェニックス幻魔拳!!」

「なに!?」

ソレントは、繰り出された拳をかわそうとしたが一瞬早く彼の額を彼女の技が貫いていた

目の前をすぎる幻…あまりにもリアルな悪夢…様々な苦しみがソレントの精神の崩壊を誘う

しかし

「ふ、ふはははは!!
 私にそんなものが通用するとでも思ったのですか?
 それにしても、フェニックス幻魔拳?
 貴女は確か兎座の聖闘士と言っていたと思ったが、鳳凰座の技も使えるのか?
 まあ私からしたら大した技でもないが…
 もう一度言う、そこをどきなさい
 女性を殺すのは私の好みではありません」

優しいのは口調だけで、幻魔拳の影響か表情は険しく額には汗がにじんでいた

効いていないわけではないようだが、倒すことはできなかった…

今の体力では使える技も限られている上、ここは病院だ

派手な拳を振るえば、病院にいるであろう多くの一般人や病室の沙織を巻き込むことになる

必死で繰り出した技でトドメがさせなかったエスメラルダは、苦しい息の下で死を覚悟していた
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ