不死鳥の部屋

□不死鳥伝説ーその鳥がはばたく時ー3章
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一人の雑兵が横たわった沙織を見つけて薄く笑った

「こんな女一人、さっさと殺してしまえばいいのさ」

言いながら沙織に刀を突き付けた…いや正確には突き付けようとした時

その雑兵は20mほど先まで蹴り飛ばされていた

「貴方達、誰に刀を向けているか分かっているの?!
 私がここにいる限り、アテナには指一本触れさせません
 命が惜しくないなら手を出してごらんなさい!
 その時は貴方達……死ぬわよ?!」

それでも向かってくる雑兵たちを他人事のように眺めながら、一つの決心の元に彼女は仮面を取り去った

『そうよ、約束したもの…一輝と!
 私がアテナを守るって!守ってみせる!
 あの人は鳳凰、不死鳥だもの…きっと蘇る!
 それまでは!!』

心の中で誓いながらエスメラルダはがむしゃらに広場を埋め尽くすほどの敵の中へ身を投じていった

雑兵たちは聖闘士である彼女の敵足り得なかったが、とにかく数が多い

槍をかわせば刀、刀をかわせば短刀で常に四方から攻撃をうける

埒があかないとばかりに飛びあがると、兎蹴(ラパン・クードゥピエ※)で雑兵を的確に倒して行く

もう一度、と飛びあがったところに大量の矢が襲いかかってきた

ほとんどは叩き落としたりよけたりしたものの、肩と脇腹に矢が刺さってしまう

大したことはないとばかりに矢を抜き去ると、また戦いを続けていく

その間にも時計の火は一つ、また一つと消えていき、他の星矢や瞬たちの小宇宙も消えかかっていた

その後、なんとか一人で百人を越す残りの雑兵もすべて倒してしまった

なぜか先ほどから眩暈がしているエスメラルダだったが、沙織の近くに歩み寄り大きく溜息をついた

その時

エスメラルダは、強くはないが確かに一輝の小宇宙を感じた

不死鳥は蘇ったのだ

彼女に希望の光がみえた

「彼なら、彼ならアテナを助けることができる」

少しずつ、だが確実に一輝の小宇宙は強まっているのを感じていた

シャカとムウの協力によって異次元から戻ってきた一輝はすでに次の戦いに挑んでいた

今回の元凶、教皇…いやジェミニのサガと戦っていたのだ

そして

次の瞬間、空が輝き…アテナがその光に包まれると黄金の矢はみるみるうちに消えていった

「一輝と…星矢…かな?…さすがだわ」

それを見て安心したのだろう…彼女は荒涼とした敵の屍の中に倒れ込んでしまった

「あは…なんでかな…雑兵としか闘ってないのに…体うごかないや…」

エスメラルダは自分が情けなくて涙を流していた

心に愛しい人の声が響いた

『エスメラルダ…』

そして次に確実に一輝の声が聞こえてきた

「エスメラルダ!!」

倒れている彼女を見つけると自分の傷も忘れたかのように駆け寄ってくる

「頑張ったな…俺も約束通り、生きてもどったよ」

跪いて抱き上げると、彼女の頬にかかる髪を指で弾いて仮面をつけてやりながら微笑みかけた

しかし彼女には涙のためなのか目がかすんでよく見えなかった

それでも愛しい人が手の届くところに帰ってきた嬉しさで精いっぱいの微笑みをかえす

「嬉しい…約束守ってくれたのね…」

エスメラルダが手をあげると、その手をとってそっと自分の指を絡ませる

「もちろんさ、俺だって…君を残してまだ死にたくないからな」

一輝は指先にキスを落として囁くと、彼女を抱き上げて皆の元へと歩いていった…
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