不死鳥の部屋

□不死鳥伝説ーその鳥がはばたく時ー2章
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パーティーも終わりに近づいた頃

会場の隅で食事をしていた一輝にエスメラルダが歩み寄った

「ねぇ、一輝
 沙織さんと約束してしまったことがあって…
 あと30分したら私の部屋に来てくれる?」

少し恥ずかしそうに言う彼女

「わかった、30分後だな」

時計を確認して頷くと、エスメラルダは待ってるわねと言いながら会場から出て行った



30分後

言われたとおりに彼女の部屋の前に立った一輝は、一呼吸して扉をノックした

「一輝?どうぞ入って?」

中から沙織の声がして驚いたが、そっと扉を開いて中へ足を踏み入れた

「せっかくエスメラルダさんに似合うドレスを作ったのに仮面をつけてドレスじゃあんまりでしょ?
 だからパーティーじゃ着ないって言われちゃったの
 でも、もったいなかいら貴方にだけでも見せなさいって言ったのよ♪
 とっても綺麗だから見てあげてね、それじゃ私はパーティーに戻るわね」

言いたいことだけ言って、沙織は数人のメイドを連れて一輝と入れ違いに部屋を出て行った

部屋の中に視線を戻すと、鏡台の前に一人の女性が座っている

濃いグリーンのやわらかなグラデーションに金粉がまぶしてあるシンプルなシルエットのドレス

金色の髪は銀の髪飾りでゆるやかにまとめられ、白い項がほのかな色気を放つ

「エスメラルダ?」

普段見ない彼女の姿に、彼女であることは間違いないのに思わず疑問形で呼びかけてしまう

恥ずかしそうに振り向いたエスメラルダは頬紅のせいだけでなくピンク色に染まった頬をほころばせた

裾をひらりと持ち上げてくるりと回ると小さく肩をすくめて一輝を見上げた

「なんだかこんな恰好も幾世ぶりだから…似合うかしら?」

すっかり見惚れて言葉を失っていた一輝はあわてて首肯した

「あ、ああ
 すごく似合ってる…綺麗だ」

きっと氷河あたりならもっと気のきいたことがいえるんだろうにと思う

照れてしまってなかなかまっすぐ見ることができないでいると、袖をクイっと引っ張られる

「一輝?ホントに見てくれてる?
 …やっぱり似合わない?」

悲しそうに肩を落とす彼女に驚いて、慌てて視線を戻して細い腕をつかんだ

「ば、ばか!落ち込むな!
 似合うって言っただろ?
 …あんまり綺麗で見惚れてた自分が恥ずかしくなっただけだ…」

俯きかけていたエスメラルダは、頬だけでなく首や鎖骨の辺りまでピンク色に染まる

次の瞬間、本当に嬉しそうにふわりと微笑んだ

「ふふ♪ありがとう
 貴方に褒めてもらえるのがなにより嬉しい」

素直すぎる彼女の言葉と笑顔に一輝の心臓はトクンっと跳ねる

「フッ…君が聖闘士になってくれて良かった…」

思わず呟いた一輝

「どうして?」

上目づかいに顔を覗き込む彼女をそっと抱き寄せながら恥ずかしそうに言葉を紡ぐ

「こんな綺麗な君の姿を他の男に見せずにすんだからな
 勝利の女神を俺が一人占めしてる…なんて贅沢な幸せだ…」

普段は聞けない彼の甘い言葉に、エスメラルダは目をまるくして瞬きをした

「一輝ってば…
 沙織さんに押し切られちゃったけど、ドレス着た甲斐があったかな♪」

嬉しそうに笑って一輝の胸にそっと寄り添った

「君が生きていてくれて本当に良かった
 俺はあの後しばらく気持ちも荒れて憎しみに身をまかせて生きていたんだ
 仲間たちのおかげで立ち直れたが…あの時は本当に、光を失ったと思った」

2人の視線が自然と重なり、遠くからパーティーの喧騒がかすかに聞こえてくるだけで…
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