不死鳥の部屋

□不死鳥伝説ーその鳥がはばたく時ー締章
1ページ/3ページ

「海皇様、ただいま戻りました」

海底神殿に声が響き、人魚姫(マーメイド)のテティスは待ちかねたとばかりに声の主を振り返った

「ソレント!戻ったのですか!
 では、首尾よくアテナの命は…」

敬愛する主が待ちかねていたことを聞こうと言葉を続けようとするテティス

しかしそれを遮るようにソレントは後ろの門を振り返りつつ話しかけた

「聖闘士など、恐れるにたりん…しかし…」

「しかしなんだというのです…」

言いながら門に視線を送りハッとしたテティスに頷きつつソレントは答えた

「アテナは恐ろしい…彼女に連れて来いと言われて拒めなかった…」



沙織は単身、海皇の海底神殿へと乗り込んでいた

しかし、海皇に対峙してその姿をその目にとらえた瞬間、沙織は悲しげに目を伏せた

そこにいるはずのない人の姿を見出したから…

海皇としてそこにいたのは、ギリシアの海商王ソロ家の若き継承者ジュリアンであった

彼は沙織の姿を見て、驚きつつも嬉しそうに彼女に歩み寄り、その手を取ろうとした

その瞬間、沙織は彼を強く睨みすえ、彼の頬にパシッと乾いた音を響かせた

「見損ないましたわ!ジュリアン・ソロ!
 貴方が海皇だったなんて…私がアテナと分かっていて求婚したのですね!?
 地上への侵攻が目的で私に近づこうとしていたのですね!」

「そ、それは誤解というものだ!!
 沙織さん、私はあの晩まで本当に自分が海皇の化身であることなど知らなかったんだ!
 あなたがアテナであることも、今あなたがここへ来て初めて知ったことだ!
 貴女を愛したことも、求婚したことも、誓って純粋な気持ちからだった…
 もし貴女が私を受け入れてくださるのならば、地上への侵攻をあきらめても良いと思うほどに…」

深い悲しみを湛えた瞳で沙織に訴えかけるジュリアンに、沙織の心は揺れる

彼の頬を叩いた手を、もう一方の手でギュッと握りしめてその気持ちを心の奥底に仕舞い込む

「もう、手遅れですわ…ジュリアン
 あの時、私は聖域での決戦を控え、アテナとしての使命もあって貴方の求婚をお断りしました
 私と関わることで貴方に危害が及ぶことも恐ろしかった…
 正直、あの時私に嬉しい気持ちがあったのは確かです
 でも…やはり私と貴方は共に歩むことの叶わない運命にあるのでしょうね…」

何かを言おうと口を開きかけたジュリアンの言葉を制するように沙織は言葉を続けた

「既に聖戦は始まってしまいました
 そして私が貴方を受け入れることもまた出来ないことです
 貴方がさし向けた海将軍によって殺されたのは…私の従妹ですよ?
 私の母メティスの姉、ステュクスの娘…私の大切な友二ケ
 彼女は私を海将軍から守るためにその命を失いました!」

沙織の目からはポロポロと涙がこぼれ落ちてゆく

「貴方もご存じでしょう?彼女と彼女の父に科せられた哀しい罰を!
 今度こそ、今度こそ普通に長い人生を送ることのできたはずだったのに…
 私はどうやって償えば良いのですか?
 ステュクスに…パラースに…そして、彼女の恋人に……」

ジュリアンは愛する人に拒まれ攻め立てられることに困惑したように彼女の言葉を聞いていた

しかし

しばらく目を伏せたあと、顔をあげた彼の表情は先ほどまでの愛に苦しむ少年の面影はなかった

海皇は薄く笑うと沙織に告げた

「それはすまなかった…しかしどうせ地上は消え去るのだ
 二ケも少し死ぬのが早まっただけのこと…大して変わりはしないだろう
 そうだな…アテナ、君にチャンスを与えてやろう
 地上を救いたいのだろう?」



「エスメラルダ…一輝……ごめんなさい
 ステュクス…パラース…貴方達の娘は貴方達のもとへ旅立ちました
 長い間地上の為に尽くしてくれた二ケにもようやく翼が戻るでしょう
 二ケ、でももし叶うなら地上に住む命を救う力を私に分けてちょうだい」

大黒柱(メインブレドウィナ)の中、沙織は繰り返し祈り続ける

全世界に降り注ぐ雨を代わりに受けながら…
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ