不死鳥の部屋

□不死鳥伝説ーその鳥がはばたく時ー4章
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「おい、紫龍…今日で何日目だ?」

窓の外を見ながら珈琲を飲んでいた一輝がカップを置きながらふいに尋ねる

「今日で一カ月だ」

突然主語もなく聞かれた問いに、紫龍は考えることなく答える

なぜなら同じ問いを毎日一輝から尋ねられるからだ

「そうか、もう一カ月か…」

ソファに仰向けに倒れ込んで呟く一輝を紫龍は憐れむような目で見た

一輝は溜息をつきながら、その視線にも気付かず遠い目をしていた



エスメラルダは聖域で受けた傷が思ったより重く、あの後倒れてしまったのである

その後、一か月間ずっと昏睡状態が続いていた

というのも、相手が聖闘士ということで正攻法では勝てないと思ったのであろう

彼女に刺さった矢にはなんらかの毒物…おそらくヒドラの毒が塗ってあったらしい

しかもご丁寧に刺さったあと体内で大量に毒が拡散するよう鏃に細工がしてあったのだ

おそらく聖闘士でなければその日のうちに命を落としていただろうというのが医師の見立てだった

出来る限りの治療は終え、今は彼女自身の生命力にかかっているという状況で…

あの日以来、毎日午前中は彼女の従妹でもある沙織が付き添ってくれていた

そして一輝は午後から見舞いに行くのだが、午前中のこの時間はたいていサロンにいて

こんな風に心ここにあらずといった状態で同じ質問をするのである




突然、何かを思い出したのか、一輝が寝ていたソファから飛び起きて大声で尋ねた

「おい!!…今日は何日だ?」

周りにいた四人はちょっと面喰ったが、瞬が間をおいて答えた

「…25日、8月25日ですよ、兄さん
 お願いですから、いいかげん元気出してくださいよ
 医師も大丈夫だと言っていたじゃありませんか…
 彼女なら、時間がかかっても必ず元気になって戻ってきてくれますよ」

しかし、瞬の言葉も後半は一輝の耳には届いていなかったようだ

「そうか、25日か…そうか…」

妙に嬉しそうに呟くと、唐突に星矢の肩をガシッと掴んだ

「ちょっと買い物に付き合ってくれないか?
 できれば…美穂ちゃんを連れてきてくれ」

「え?!美穂ちゃん?な、なんで?」

突然、仲の良い幼馴染の名前を出されて星矢が戸惑いの声をあげる

一輝は気恥かしそうに頬を指で掻きながら呟いた

「…女の子の欲しいものなんて…男だけじゃ分かんねぇだろ…」

その呟きの意味を解することができたのは氷河だけであった

「クク…つまりなんだ?お前は彼女にプレゼントをしたいってわけだ?
 それを選ぶのに美穂ちゃんの助言が欲しいってことだろ?ん?」

青い目で覗きこむ氷河の視線を避けつつも、一輝は久しぶりに笑顔をみせた

「今日、あいつの誕生日なんだ」
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