不死鳥の部屋

□不死鳥伝説ーその鳥がはばたく時ー1章
1ページ/3ページ

今、城戸家の門前に一人の人物がたどり着いたようだ

「はい、どちらさまでしょうか?」

呼び鈴を鳴らすと、インターホンから女性の声が聞こえてきた

おそらくメイドだろう

「あの、一輝…様は御在宅でしょうか?」

「はい、いらっしゃいますが…失礼ですがどちらさまでしょうか?」

メイドは今一度確認した

「はい、・・・・・・・・・・」

「…お入りになって、少々お待ちください」


客を薔薇が綺麗に咲き誇った中庭のテラスへ客を案内すると、メイドは一輝に来客を告げに行った

一輝は客、しかもデスクイーン島からと聞いて、いぶかしげに首をかしげた

『デス島から?いったい誰だろう…ブラックの連中だろうか?』

そう思いながら、客が待つという中庭へ向かった


「エ、エスメラルダ?!」

以外にもそこにいたのは死んでしまったと思っていた大切な少女、エスメラルダであった

彼の驚いた声がよほど可笑しかったのか、ふわりと木漏れ日のような笑顔でクスクスと笑っている

そして懐かしそうに目を細めると少し頬を染めて彼を見上げた

「君…一体どうしたんだ……あの時死んだと思ってたよ、俺…
 心臓も止まってたよな?確かに…」

未だに状況が把握できずにいる一輝

「ふふ…あの父の娘だもの、あれぐらいで死なないわよ?一時的に仮死状態になってたみたいだけど」

苦笑しながらも嬉しそうな彼女は、彼の腕にかるく触れた

「そうか…そうか、よかった!!」

彼女の小さな手を自分の両手で包むと祈るように自分の額に軽く押し当てた

もしかしたら泣きそうな顔を見られたくなかったのかもしれない

しばらくして顔をあげた彼は、実は先ほどから気になっていたもう一つの疑問を口にした

「…でも、それって?」

彼女の後ろには、ひとつの聖衣箱があったのだ

「あ、これ?兎座の聖衣よ…私ね、青銅聖闘士になったのよ」

彼女の言葉に一輝は数回瞬きを繰り返した

「ええ?で、でも修行は?」

長年修行して聖闘士になった彼の疑問はもっともだといえる

「ん…あのね
 小さいころからあんなところにいたでしょ?
 実は結構修行もさせられててね…技を覚えるだけで良かったの」

小さく微笑む彼女の言葉に納得しつつも、なんだか自分が情けない気がして小さくつぶやきを零す

「俺、あんなにかかったのに…」

「そんなこと…だったら私は生れてからずっとだもの
 それに、本当はね…
 あの時、一輝がこなかったら私が鳳凰座の聖闘士になるはずだったから」

そうなのかと苦笑いしつつ、再び会えた喜びから半ば無意識に彼女を優しく抱きしめた

「でも、どうしてここに?」

「私も聖闘士よ
 女神を守るために決まってるでしょ
 沙織さんの許可も得てるし、それに…」

そこまで言うと、彼女は急に言葉を切った

「それに?」

急に黙り込んだのを不思議に思って一輝は腕を緩めて彼女の顔をみつめた

「あ、なんでもないのよ…」

濃紺の瞳に捕らわれそうになり、エスメラルダは頬をさらに染めて俯いた

2人はしばらく懐かしい話をしながら、互いの無事を喜び合った

日が傾いて肌寒くなってきた頃、先ほどのメイドが彼女を呼びに来た

「お話し中失礼いたします…そろそろ夕食前に皆様にご紹介をしたいとお嬢様がおっしゃっております」

話に夢中になっていた2人は、はじめて時間がかなり経っていたことに気付いた

「まぁ、もう夕刻なのね…分かりました伺います」

「まずはお部屋へご案内いたします、どうぞこちらへ」

一輝にむかって会釈をしながらメイドはエスメラルダの荷物を手に取った

エスメラルダも聖衣箱をかつぎながら、彼に微笑むと仮面を手にとる

「じゃ、一輝またあとで」

そういって仮面をつけてメイドについて行く彼女の姿を、一輝は見送った

そう、彼女は今まで仮面を外していたのだ

一輝はそれがなにを意味するのか、気づいてはいなかった
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ