戦国BASARA

□夏夜に謳えば
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冬になれば雪に閉ざされる奥州にも、短いながらも平等に夏はやって来る。
毎晩寝苦しいのは厄介だったが、雪深い時節の困難を思えば、なんてことはない。
鈴虫の涼しげな鳴き声を聞きながら、小十郎は長い廊下をひた歩く。
「政宗様、失礼致します」
呼ばれるでもなく、小十郎は主の居室を訪ねた。
入れば、お目当ての主は寝支度の最中だった。
「失礼致しました、休まれるところでしたか」
「構わねぇが、夜這いか?小十郎」
「またそのようなことを」
小十郎が苦い顔をすると、政宗は喉の奥を悪戯っぽく、くくっと鳴らした。
今日の暑さは今夏一番ではないかと思うくらいで、予想通りの熱帯夜となった。
じっとしていても汗が噴き出すくらいなのに、軍議で顔を合わせたときも今も、政宗は涼しい顔をしているのだから不思議だ。
思わず、暑くないのですかと伺いたくなるほどに。
「姉上から政宗様にと預かった品をお持ち致しました。お気に召せば良いのですが」
「喜多から?」
小十郎が、風呂敷に包み携えてきたものを広げた。それは、真新しい浴衣だった。
涼しげな白絣の浴衣は、政宗の好みや格好を熟知した喜多ならではの逸品である。
どんな高級品を持ってしても太刀打ち出来ないだろう。

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