□雪の桜
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「お…、雪やな」

1月14日、冬の真っ只中。約束の場所に向かって街を歩いていると、ちらちらと雪が降ってきた。
積もりそうもない雪は、まるで街を彩るためだけに舞っているよう。

…特別な日を飾るには、ちょうどええんやないか?

今日は祝日で学校は休み、部活も運良く休みやった。
1日を目一杯使えるのはやはり嬉しい。今年はそれができる、ラッキーな年なのだと思う。だから、俺のできるすべてで今日を最高の日にする。
1年でたった1度しかない、今日は大事な日やから。

約束の場所が見えてきて、同時に反対側からこちらに向かって来ている姿も見つける。
どうやら、俺達は同時に来たみたいや。
俺は足を速めて、彼女のもとへ行く。
彼女も俺を見つけたのか、笑顔でこちらへ駆けてくる。


「おはよう、桜乃」

「おはようございます。白石さんも今来たところですか?」

「せやで。タイミングぴったりやな」

「そうですねっ」


無邪気な笑顔を向けてくる桜乃。
桜乃は俺より二つ下の女の子で…俺の大事な人。
今日は、桜乃が生まれた日。


「…誕生日おめでとう、桜乃」

「はい…、ありがとうございます」


桜乃の髪についた雪をそっと払いながら、俺は伝えた。
大事な恋人の誕生日は…胸が苦しくなるくらい、嬉しいもんなんやな。
桜乃がいとおしい気持ちで胸がいっぱいになる。


「雪、降ってきちゃいましたね」

「けど…これくらいなら平気やろ」

「そうですね!綺麗ですし」

「ああ…、せやな。まるで…」


花びらのように、ちらちらと降る雪。
白くて小さな花びら、…春に咲くあの花を思い出す。


「桜の花…、みたいやな」

「桜…!そう思うと、一段と綺麗ですね!」


桜乃は手で器を作って、雪を受けた。
桜乃の手に触れた雪の桜は、瞬く間に消えてしまう。
俺は手を伸ばして、桜乃の頬に触れた。


「俺の桜のほうが、綺麗やけどな?」

「え…、…っ!!」



雪の桜に飾られた桜乃が、キラキラと輝いて見える。
桜乃が、一番綺麗や。
俺の言葉がどういう意味かわかったのか、桜乃は顔を一瞬で真っ赤にした。


「もう…、白石さんってたまにすごくキザなこというんですから…」

「俺はただ素直なだけやで。さ、そろそろ行こか。お手をどうぞ、桜の姫君?」

「!! も〜〜!またそういうこと言って!!」


照れて頬を膨らませながらも俺の差し出した手をぎゅっと握ってくる。
触れても溶けない俺の桜は、空から舞い落ちてくる儚い雪の華よりもずっと綺麗に、俺の隣で咲いていた。


【雪の桜】

(雪の桜に飾られて、君はとても輝いている)



end

あとがき

亜咲様、企画へのご参加ありがとうございました。
白石くんは甘い言葉もクサイ台詞もサラッと言ってのける子だと思っています。
不意に言うので桜乃も毎回ドキドキしちゃいますよ(^^)

2013.1.14

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