□王子様への恋心
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「こんにちは、竜崎さん」

「あっ、幸村さん。こんにちは」


夏の終わりくらいから通っている、都内のテニスコート。
そこで知り合ったのは、あの立海大の部長である幸村精市さん。
コートで会ったときはいつも私にテニスを教えてくれて、最近はそのあとに一緒にお茶をすることもある。
お話したり、まして一緒にテニスをするなんて想像もしたことなかった、遠い人。
そんな人と、今こうして一緒の時間を過ごしているなんて未だに不思議だと思う。


「…竜崎さん、上手くなったね」

「本当ですか?」

「うん、すごく成長したよ。」


にこ、と微笑む顔が本当に綺麗で。
優しくて、かっこよくて、強くて。
まるで、おとぎ話の王子様みたいな素敵な人。

こんなふうに一緒に過ごして、惹かれないはずがなかった。


「…でも、少しまだ癖が残っているから。こっちにおいで、教えてあげる」

「は…、はい」


まるで特別な扱いを受けているみたい。
夢のような、時間。

自惚れだって頭ではわかっていても、勘違いしていたい心を止めることはできなかった。



・・・・・・




「ねえ、桜乃!幸村さんって年上の彼女がいるって本当!?」

「え…」


ある朝、朋ちゃんが私にずいって迫って問いつめてきた。
私は幸村さんとそういう話をしたことがないからわからない、と答えると、朋ちゃんは友達に聞いたっていう話を聞かせてくれた。

朋ちゃんのお友達が、幸村さんと年上らしき美人な人が親しげに街を歩く姿を見かけたらしい。

すごくお似合いだったから恋人じゃないかって騒ぐから、朋ちゃんは私に確認したらしいけど…。


「幸村さん、すごく素敵な人だし…美人な恋人がいてもおかしくないよ」

「でも桜乃、あんた幸村さんのこと…」

「どうにかなりたかったわけじゃないもの。だって、私じゃ到底つり合わないし…」

「でも!幸村さんだって幸村さんよ、桜乃に思わせぶりなことをして!」

「テニスを教えてくれていただけだよ、優しい人だから…」


きっと、ただの親切。
優しい瞳も、私だけに向けられるものじゃない。
…わかっていたことだよ。
そうでしょう?


「桜乃…」

「……」


わかっていたことなのに、どうにかなりたかったわけじゃない…はずなのに。
涙を流してしまった。
朋ちゃんはハンカチを貸してくれて、慰めてくれた。

幸村さんに、彼女がいる。
すごく嫌な気持ちが胸に広がる。

行ける日はいつも行っていたテニスコート。
しばらくは、行くのをやめよう。
もし今、幸村さんに会ってしまったらきっと…失礼な態度をとってしまう。
幸村さんは、なんにも悪くないのに。

だから、幸村さんと今までのように接する自信が持てるまでは行けない。


幸村さんへの想いが消えるまではー…。


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