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□ボヤデレ彼氏
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「伊武さん!あの…、好きです!付き合ってくださいっ!」
「…別にいいけど」
告白して、OKして貰ったのは一ヶ月前。
それから私と伊武さんの関係は、恋人に変わった。
はず、なんだけど…。
「……」
「なに?さっきから」
「あ、い、いえ…、な、何でもないですっ」
映画を観た帰り、私は伊武さんと二人で公園の中を歩いていた。
隣を歩く伊武さんの様子を伺ってたら、気付かれていたらしく伊武さんは立ち止まって怪訝な顔で私を見てくる。
「何でもない顔じゃないじゃん。なに、なんなの?」
「う…、さすがに言えないと言うか、おこがましいというか、」
「はあ?」
だって!
私まだ伊武さんに好きって言われてないな…とか、本当に私のこと好きなのかな…とか考えてたなんて、
言えないよ…!!
「言ってよ」
「い、嫌ですっ!」
「なんだよ…、言えって」
「嫌ですっ!伊武さん絶対ウザいって思いますもん!」
「言わないほうがウザい。ウザいって思われたくないなら言いなよ」
「うっ…!」
ずいって迫られてそう言われる。
伊武さんは引いてくれる気はないみたい。
それでも内容が内容なだけに私もなかなか言い出せない。
「あの…えっと…」
「……」
「……伊武さんは、その…
「…俺がなに?はっきり言ってよ」
「〜〜〜〜っ、伊武さんはっ!私のこと好きですかっ!?」
「…、はあ?」
もう、かなりヤケ気味にそう聞いた私に、伊武さんは呆れた顔をしていた。
「なんなの、今さら」
「だ、だ、だって!私まだ伊武さんに好きってはっきり言われたことないから…!」
「……」
やだ…恥ずかしい、恥ずかしい。
こんなの…、絶対伊武さん呆れてる。
私は伊武さんの顔を見れなくて、下を向いたまま言葉を続ける。
「…その、私はすごく伊武さんのこと好きだから…、私ばっかり伊武さんのこと好きなんじゃないかなって…私…」
「……」
「…す、すみません…、こんなの無理に言わせることじゃないですよね…忘れてくださ」
「好きだよ」
「…えっ…!?」
私が言い終わらないうちに伊武さんによって紡がれた言葉に、私は驚いてばっ!と顔をあげた。
「い、伊武さん…、今…、」
好きって…。
「なんだよ、聞きたかったんだろ。だいたい、そうじゃなかったら付き合ってなんかないし」
「……」
「あと、別にあんたに言われて無理に言ったわけじゃないから。今まで…、なんか言うタイミングなかっただけだし」
「…伊武さんっ!」
「なに…、うわっ」
私は嬉しくて止まらなくて、伊武さんに飛び付いた。
伊武さんは驚いていたけどちゃんと受け止めてくれた。
「びっくりした…、何してんの、いきなり」
「ごめんなさい、止まらなくて…」
「はあ?意味わからないんだけど…」
「伊武さん、好きです!私、伊武さんのことすごく好きですっ」
「さっきも聞いたよ…それ」
伊武さんはいつものようにボヤいている。
だけど、私の背中に回してくれている腕はほどかない。
「えへへ」
「何笑ってんだよ、変なやつ。でも…、」
伊武さんは私の頭にぽんっと手をおいて少しだけ微笑んだ。
「そうやってずっと笑ってたら?俺、あんた笑顔好きだから」
「!」
不意に、さあっと吹いたやわらかな風が、伊武さんの綺麗な黒髪をサラサラとなびかせた。
伊武さんは、私より一つ歳上で、まっすぐな黒髪が綺麗で…、
テニスがすごく強くて、すぐボヤく癖があって。
本当はすごく優しいんだけど、すぐにボヤいて隠しちゃう。
そんなところも、全部、全部。
大好きです、伊武さん!
【ボヤデレ彼氏】
(もう、不意にそういうこと言うのってずるいです…)
end
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