□小さな野望
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榊グループ、跡部財閥の共同出資によって企画された合同学園祭。
会場では5日後に控えた学園祭当日に向けて、多くの生徒が忙しく活動している。
その中で、参加校の1つである聖ルドルフ学院テニス部の模擬店ブースには、二人の生徒がいた。
どうやら一人の男子生徒が、一人の女子生徒の擦りむいて血が出ている肘を手当てしているらしい。


「あ、あの…観月先輩、怒ってます?」

「…わかってるなら聞かないでください」

「…す、すみません」


椅子に座って手当てを受けている女子生徒が1年生でテニス部を担当している運営委員の竜崎桜乃であり、手当てをしているのはテニス部に所属している3年生の観月はじめである。

実は数分前、桜乃はルドルフの模擬店である喫茶店の内装の上の部分の一部が取れかけていたのを見つけた。桜乃の身長で届く場所ではなかったのだが、あいにく他の生徒はみんな出払っていて、桜乃は椅子を使って自らそれを直そうとした。
だが直している途中、桜乃はバランスをくずしてしまった。
ちょうどそのとき観月が戻ってきて慌てて桜乃に駆け寄ったのだが、間に合わずに桜乃は椅子ごと倒れてしまったのだ。
椅子はそれほど高くなかったので、桜乃は倒れたときに最初に床についた肘を擦りむいただけで済んだのだが…。


「…あの、観月先輩…、」

「なんですか?」


桜乃の手当てを終え、消毒液などを救急箱をしまっている観月に桜乃はおそるおそる話しかける。


「ご、ごめんなさい…迷惑かけて」

「…はい?」

「だって、観月先輩いろいろ仕切ってくれて忙しいのに、運営委員の私が手間かけさせちゃうなんて…」

「ちょっと待ってください。…まさか竜崎さん、自分が僕に手間をかけさせたから、僕が腹を立てた思っているのですか?」

「え、ち、違うんですか?」

「……」


びっくりした顔の桜乃を見て、観月はふう、と一つため息をついた。


「…このくらいの手間で、僕は腹を立てたりしませんよ。それなら貴女より他の部員たちのほうがよっぽど手間がかかります」

「は、はあ…。」

「…いいですか、竜崎さん?」

「は…、はいっ」


観月は桜乃向き直って鋭い瞳で桜乃を見据える。
桜乃は無意識にぴっと背筋を伸ばした。


「そもそも、貴女はいつも無理をしすぎなんです。今回のように自分には難しいと思うことは無理しないで誰かに頼んでください。…先程のは、この程度の怪我で済みましたが、転びかたが悪ければもっと大きな怪我だって有り得たんですよ!…わかっていますか?」

「ご、ごめんなさい…」


完全に説教モードに入った観月に、桜乃は身を縮ませて謝ることしかできなかった。


「貴女が非常に一生懸命で、我々テニス部のためにも力を尽くしてくれていることは重々わかってます。ですから…あまり無茶をして、心配させないでください…」

「…え」


怒っている表情ではない、呆れてるわけでもない、観月らしくない、少し困ったような…複雑な表情でそう言った観月に桜乃はドキンと胸を鳴らす。


(そっか…観月先輩…、私のことを心配してくれたんだ)

それだけじゃない、普段から桜乃が文化祭の成功のために取り組んできたことを、観月はちゃんと見ていて評価してくれている。
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