放課後教室

□トラウマ
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「…っぁぁぁああああっ!」
 自分の絶叫で飛び起き、ガタガタと震える体を布団でくるむ。
 ぐっしょりと汗をかいた体は、それでも寒気を感じるほどに寒く、葉人はぎゅっと体を抱き締めた。

「…っく…なんで…夢なんか……」

 気づけばガチガチと歯が鳴り、漏れ出す呟きも途切れがちだった。

 体を押さえつける掌
 引き裂かれた体
 イかされた屈辱

 あの日の放課後の出来事は、夜な夜な夢となって現れ、リアルな快感と苦痛をともなって葉人を責めたてた。
 ふらふらと立ち上がり、台所へと水を飲みに行く。
 廊下に長く延びた影は、あの事件から激やせしてしまった葉人そのものに見える。


 元々、男にしては筋肉のつきにくい方だったし、背もあまり高くなかった。
 貧弱な体と言ってしまえばそれまでだったが、中性的な顔立ちに深い亜麻色の髪がぴったりだったせいか、教室ではアイドル的な立場として落ち着いていた。

「葉っ!」

 大きい声をかけられると、びくりと体が震えるようになっていた。
 例えそれが親友だとわかっていても…

「威(たける)…おはよ」
「先に行くなら一言声かけてから行けよ」

 黒い短髪に精悍な顔立ちをした長谷威(はせ たける)のすねたような表情を見て、小さく謝る。


「ごめん…急用思い出して。早めにいかないと行けなくなったから」
 同い年なのに見上げなくてはならないほど体格差が、葉人には羨ましくもあり近寄りたくない原因でもあった。

 あの日以来、がっしりとした男に傍に来られるだけでも怖かった。
 感覚だけでしかわからなかったが、自分より遥かに男らしい肉体をしているのは肌で感じていた。

「ここんところ、ずーっとそんなこと言ってるだろ、なんかあったのか?」

 男に犯されたなど、幼馴染みでも言えるはずがなかった。

「…なんもないよ。おれ、歩いていくから」
「え?バスは!?」
「乗らないっ」

 不特定多数の男と密着せざるを得ないバスに乗ると言うことは、考えただけで叫びだしそうだった。

「た…体力作りにっ…歩こうと思って…」
「体力より飯食った方がよくないか!?」
「………じゃあ、おれこっち行くから」

 幼馴染みが行こうとする方とは反対の道を歩き出す。
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