雑事祓屋〜都市伝説見聞録〜

□6月2日
2ページ/2ページ

「何しに来てん」

 そう言うと、かちゃ…と音がして馴染みの顔が覗く。
 白(しろい)さんだ。

「何って、おやつ持ってきた。あんたらこそナニしてんの」
「やかましいわ、ナニしよと勝手じゃ」

 お茶の準備をするオレに、そんな会話が聞こえてくる。

「ハルちゃん。これ。皿に出して」

 いつも羽振りが良さそうな仕立てのいいスーツで、美味しい店のお菓子を買ってきてくれる白さんはいい人なんだけど…

「いつもありがとうございます」
「ねぇハルちゃん。俺の方がちゅーはうまいよ?」
「えっ…」

 この毎度の度が過ぎたセクハラが…腹立つ!

「俺ならもっとキモチよくさせてあげるよ」
「いやっあのっ…」
「白。湾に沈めるで」

 尻を撫で上げてくる白さんの手を叩き、キッチンへと戻る。

「ええ加減にせぇよ」
「貧乏祓屋よりは、俺の方がいいと思うけどな?」
「御託はええから用件言えや」

 師匠の機嫌が下がる下がる…これ以上挑発するのはやめてぇ…

「用件の前にハルちゃんとちゅーさせてよ」
「その前に一発死んでこいや」

 あはは…と笑う白さんは、一見するとただの好青年なんだけどな。
 背も高いし顔も悪くないと思う…むしろいい方?師匠といると感覚狂うんだよな。

「仕事のことだよ」

 両手を顎の下で組み、そう切出した白さんの声は真面目だった。
 真剣に仕事の話に入るみたいなので、この間買ったカップに淹れた紅茶と揃いの更に乗せたケーキを出してそそくさと師匠の傍に座る。

「あれ、俺の膝の上に来ないの?」
「鬱陶しいわ!さっさと話さんかい」

 むっつりとしたまま紅茶に口をつける師匠を見上げると、深い紫がかった目がこちらを向いた。

「食え」
「…いただきます」

 ころぽっくるのりんごのムースは大好物で、早く食べたかったけど一応聞いてからじゃないとね。

「よく躾けてるなぁ…んで用件なんだけど」
「なんや?」

 オレの唇の端についたムースを、師匠が取ってくれる。

「守屋ってとこから依頼が来たら断れ」

 どっかで聞いた気がする名前だな…

「やっぱりか。あかん、もうハルキが引き受けてもた」
「え!?」

 オレ!?

「ったぁぁ…遅かったか…」
「多分コレ買わんかったら間に合うとったで」

 頬張るムースを飲み込んで、二人の顔をちらりと見る。

「オレ…原因?」
「いや、お前はあの客はよ帰そう思ただけやろ。悪いことあらへん」
「ハルちゃんはただうまいものが好きなだけなんだから悪くないよ」

 …結局悪いのはオレじゃないか!

「守屋…ってさっき来た女の人ですよね?」
「女?」
「辻ヶ花着て西陣巻いた煌びやかな人だったよ」

 白さんは、あー?と唸り、ぽんと手を叩いた。

「サオリとか言わなかった?」

 なんとなくそんな記憶があったから頷いておく。

「あの依頼って何かまずかったんですか?いつもみたいなお祓いの仕事だと思ったんですけど…」

 ちょい…と、師匠の意見を伺うように白さんは首を傾げてみせる。それを受けて、師匠も肩をすくめて見せた。

「今あちこちの祓屋や拝み屋に依頼に回ってるみたいだよ。俺のとこにも来た」
「え…でも白さんって祓屋じゃないでしょ」

 三つ揃えのスーツをびしっと着た白さんの職業は大家だ。この事務所の入っているビルもその一つ。
 それと後、祓屋達の情報屋みたいなこともしてるけど…コレは趣味みたいなもんかな?

「昔ね。辞めたのを知らなかったみたいだけど…あれは良くないよ」
「あれは良ぉないな」

 なんだか二人で通じあってるのが悔しくてむっとする。

「そっかぁ…ハルちゃんは視えないんだよねー」
「見えなくはないですよ…ただ…昼間は分かりにくいだけで…ほんとですよ!ほんと!」

 祓屋を一応やってるけど、オレ自身は実は見えない。
 条件が整えば、肝試しに行って運悪く霊が視えちゃう人程度には見えるけど…普段は零感だ。

「いろんなモノがまとわりついて、顔なんかわかんない感じだよ」
「えっ?」
「ドロドロやな。たぶん…まともなとこやったらキナ臭ぉて受けんやろ」
「ええ!?」

 ちらりと二人がこちらを見る。

「ま、お前が悪いんちゃうし」
「ハルちゃんが悪い訳じゃないよ、ドーンマイ!」

 …やっぱり、オレが悪いんじゃないか!
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ