短編

□豆まき?いいえイジメです。
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、節分。


「豆まきしようぜ!」

「やめろ円堂!その笑顔とテンションで豆を投げるのは!」

サッカーの時と何一つ変わらない爽やかな笑顔。
そんな円堂の腕は、目にも止まらぬ速さでビッシュビッシュと豆を投げ…いや、撃っている。

もはやお前が鬼だろ!
そう叫びたい衝動を堪えながら逃げ回っているのは、鬼道だ。

もちろん、彼は望んで豆を投げられているわけではない。
気づいた時にはこんな状態で、はっきり言えば彼はかなり混乱していた。

―――朝起きて、円堂を見かけたから挨拶をしただけなのに…
―――まさか挨拶の代わりに豆が返ってくるなんてな…!

そのまま今に至るまでの数分間、円堂は飽きることなく攻撃を続けている。
そんなわけで、いくら彼にも状況の把握は不可能に等しかったのだ。
自分が鬼役だというのは痛いほどわかっている。というか痛い。
だが、なぜ自分が鬼役なのか、誰がこの豆まきに参加しているのか、何もわからなかった。

「みつけたぞ、鬼道!」

「豪炎寺!?お前もなのか!」

廊下の角から現れた豪炎寺に、鬼道は不覚にも怯んでしまった。
しかし豪炎寺はその隙をのがさない。

「鬼は外ぉぉぉぉ!!!!」

「どうした豪炎寺ぃぃぃ!!」

明らかにいつもと違うテンションで一気に大量の豆を投げる豪炎寺。
円堂のように素早い豆が飛んでくるだろうと予測して、鬼道は咄嗟に身構えた。

「なっ…!」

―――俺に投げたんじゃない!?

しかし鬼道の予測に反し、豆は豪炎寺の遥か頭上へと飛んでいく。
彼は、思わず豆の動きを目で追っていた。

そうして上を見上げる鬼道の視界に、高く飛び上がった豪炎寺が写り込んだ。

「しまった、必殺技か!」

螺旋を描きながら、豪炎寺が宙を舞う。
鬼道には、彼が何をしようとしているのか手に取るようにわかった。

―――ファイアートルネード…!

そんなもので蹴られた豆に当たれば、ひとたまりもないだろう。
だが、逃げるには時間が少なすぎた。

「いくぞ、鬼道!ファイアートルネード!」

「くっ…!!」

策が浮かばない歯痒さに、鬼道が唇を噛んだ。
同時、豪炎寺の足が大量の豆に触れる。

「「あ」」

豆は、炎に包まれて灰になった。


「「………。」」

沈黙の中、トン、と豪炎寺の着地する音が虚しく響く。
しばらくの間、二人とも動かなかった。


おもむろに、豪炎寺が升に手を突っ込む。

「……鬼は外」

ぱらぱら。

豆は30センチ先で散乱した。

ぱらぱら。

ぱらぱら。

ぱら。

ぱら。

ぱら…ぐすっ。


…鬼道は逃げた。



 
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