短編

□毛根バースデー!
1ページ/1ページ

「生えた」


朝の鬼道邸。
おはようの挨拶も無しに、いきなり不動が鬼道に放った言葉は、たった一言、それだけだった。


「……は?」

「だから、生えたんだよ」


不動が特に取り乱している様にも見えない。
だからこそ、鬼道には不動のこの要領をえない発言の意図が読めなかった。


「いや、だから何がだ?」

「髪が」

「髪なんか誰だって……ん?髪?」


面倒だと思い始めていた脳がフリーズする。
不動から聞こえてくるはずのない単語が、今確かに彼の耳に届いたのだ。


「お前、今髪と言ったか!?」

「ああ」


ニヤリと笑って、誇らしげに頷く不動。


「起きたらあったんだぜ、触るか?」

「いや、いい」

「…………即答かよ」


言うものの、鬼道は不動の頭の、モヒカンではない部分を数秒間じっと見つめていた。
そして彼の頭が若干じょりじょりしていることを確認すると、勇んで振り返る。


「円堂!豪炎寺!風丸!染岡!吹雪!基山!ょっと来てくれ!!」

「えっ?お前ら今日皆で遊んでたの?」

「ああ。昨日から泊まりでな」


なんで俺、呼んでもらえなかったんだ?
そんなつぶやきはそよ風に消えていく。


「どうしたー、鬼道ー!」


少しして、ぞろぞろと円堂たちが姿を表した。
名を呼ばれた面々は全員揃っている。


「不動についに髪が生えたそうだ!」

「本当か?やったじゃないか、不動!」

「それ、生やしてないんじゃなくて生えてこなかったんだな!」

「言ってやるな円堂。さすがに不動もそこまでダサくないさ」

「僕、てっきり伸びないように毎日剃ってるのかと思ってたよ」

「それは俺が流したデマだ」

「ご、豪炎寺くんwwwwww」


ほぼ確実に祝われていなかったが、不動の表情は明るかった。
相当嬉しかったのだろう。


「俺、このまま伸ばすことにしたぜ。そろそろこの髪型も飽きたしな」


脳内で髪の伸びた自分を想像し、また誇らしげに笑う不動。
そこにいる誰もが、新境地へと想像を膨らませていた。


「そっちの方がかっこいいかもしれないしな」
(まあ髪型が一番かっこいいのは俺だが)

「だいぶ印象変わるよね」
(まあどこにでもいる髪型に成り下がるんだけど)

「でもそれ、結構モテると思うよ」
(まあ一番女の子にモテるのは僕だけどね)

「もしかしてそのほうが似合ったりしてな」
(まあ服のセンスがゼロだからプラマイゼロだが)

「そうしたら好感度もあがるな!」
(まあ友達の数は絶対に俺の方がうえだけど)

「サッカーのモチベーションもついでにあげてくれよ」
(まあ所詮二流は二流だけどな)


不動は、気づかない。
その言葉たちのもつ本当の意味に。


だが残るは、空気の読める男、風丸。
一拍置いて、皆の肩を叩いた。


「そうと決まればパーティーだ!!」


結局、皆不動が大好きなのであった。
















「っていう夢を見た」

「心配しなくても、今日も俺の頭には余計な毛は無いぜ(泣)」



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ