[Angel's wing]

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土方さんに朝食のことを簡単に説明して、遅く起きていいんだと思いながらベッドに入るとなんだか眠れない。


少しくらい夜更かししても大丈夫。読んでなかった本を読み始めると時計の針はいつのまにか進む。


本が終わりに近づくと欠伸がでたから、ラストが気になるけれど眠ることに。


物音がして無意識に時計を確認すると、まだ五時すぎ。土方さんが起きたんだろう。器用だから朝食づくりもなんなくこなしてしまうんだろうな……


寝ぼけた頭でそんなことを考えていると、瞼がすぐに落ちてくる。


何か夢を見ていた気がするけれど、強制的に起こされた私にはそれが何だったのか思い出す余裕はない。


『また………っぅ……』


確かに感じる痛みに体を丸めていると、それは徐々に消えていった。


寝返りをうち仰向けになるとため息が漏れる。ゆっくりしても駄目だった……


胸の痛みの原因よりも土方さんに何て言えばいいのか考えてしまう。


本当のことを言ったら他の家事もやると言い出すかも。土方さんは自分の仕事があるんだから負担をかけたくない。


着替えた私は何もなかった顔でキッチンへ行くと、土方さんが料理を終えた所だった。


『おはようございます。おいしそう。あっ私やります。』


「ああ。痛みは?」


お茶碗にご飯をよそう手は止めず、暗くならないように少しお道化た。


『大丈夫でした。朝寝坊したかったのかも。』


“そうか”と安堵した声が聞こえ、これでよかったんだと思った。


自分の体のことは自分でなんとかしなくちゃ。本当のことを言えば気持ちが楽になるけど、土方さんにとっていいことは何もない。


病院で検査してもらって病気ではないと言われたこともあって、すぐに解決策は見つからない気がする。


とりあえず自分なりに状況を客観的に把握することが優先。


今までよりも時間を気にせずゆっくりと家事をこなし、気持ちに余裕をもたせて生活することに。


それでも、朝になると必ず起こる痛み。時間や痛み具合をノートにつけるようにして一週間。


痛みが起きる時間がまったく同じこと。ひいていくのが少しずつ遅れていることがわかった。


その時間に病院に行けば何かわかるだろうか……堪えていれば引いてく痛みは救急で行っても後回しにされてしまう。


考えるだけで難しいと思うと行動に移せず時間だけが過ぎていく。


我慢すればやり過ごせる痛みが一日の始まりに必ずくるという状況は、精神的に追い込まれていく感じがした。


総司ならこういう時、どうするんだろう……リビングのソファーに座り壁に飾られた絵を見るとそんなことを考えてばかり。


「痛むのか?」


気配を感じさせず突然聞こえた声に驚いて振り返ると土方さんがいて、否定しなきゃと頭を横に振る。


『今は痛くないです。』


土方さんの顔が曇るのを見て、自分が発した言葉を思い返しはっとした。これじゃ、痛みを感じる時があるって言ってるようなもの。


なんて、言えばいいんだろう……焦ると余計に言葉がでない。


『えっと……「誤魔化すな。病院に行った後も痛みがあったのか?」


ぴしゃりと言葉は遮られ黙り込んだ私。尋問のような厳しい口調で問われ、観念してあると答えると次の質問がくる。


結局、ノートを見せると書かれた文字を追う土方さんの目が怖くて俯いた。


「決まった時間か。」


『どうしたらいいのかわからなくて……』


痛む時に病院で診てもらうのは難しいことを話すと、そうだなと同意した土方さんはノートを貸してくれと言う。


『構いませんけど。』


“何か気になることがあれば言ってくれ”と土方さんが部屋に戻ると、総司の描いた湖の絵をぼんやり眺めた。


同じ時間に起こる痛みなんて病気じゃない気がするけど、そうなると残されたのは天上界からの何か。


制裁なのか死……考えるだけで沈んでいく気持ちを総司ならどうしただろう。最悪の場合を考えて準備する方がいいのか、答えが見つけらない。


『夕飯つくらなきゃ。』


こんな時でも、やらなきゃいけないことの為に動くことができるのは土方さんがいてくれるから。


食事の為に下りてきた土方さんの表情はいつもと変わりなくて、ほっとした。


「前に知り合いの医者がいるって言ってたよな。その人なら痛みが出る時に診てもらえるんじゃねえか?」


『そうですね……明日、電話してみます。』


低い声が事務的に聞こえたのか、空気が悪くなった。今までこんなことはなかったから気まずさに二人とも黙ってしまった。


色々考えてくれたのに……悪いのは私だ……


『すいません。ちょっとイライラして。』


「誰だってそういう時はある。謝らなくてもいいんじゃねえか。」


心の弱さを受け止めてくれる言葉には土方さんなりの優しさがあって、救われる思いがした。


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