[Angel's wing]
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秋はほんの一瞬で過ぎ去り、日照時間が短くなる。冬になっても特に生活に変化はないが、俺も春が待ち遠しくいというのがわかるようになった。
「ずいぶん楽しそうだな。」
スマホじゃ画面が小さいとタブレットに変えた羽央はエレンが来た時にどこに行こうか計画を立ててるらしい。
『最近遠出してない、いい機会だと思って。』
「どこに行くつもりなんだ?」
『えっと……まだ検討中なので。』
このタイミングでじっと目を見つめられると違和感がある。
隠してるのか?いやそんな必要ないはずだ。……まあ、この辺りは自然があるだけだし、変わった所もねえだろうと聞かずにいた。
エレンが来たのは11月の下旬。最高気温もマイナスの日々が続き雪が積もっている。
『迎えに行ってくるついでにカフェ行ってホットチョコレート飲んでくるから少し遅くなります!』
「ああ、ゆっくりしてきたらいい。」
一緒に行かされなくてよかったと、俺は部屋で仕事をした。
夕方に二人が帰ってくると、楽しそうな声が二階にも聞こえてくる。呼ばれたから下りていくとエレンが頭を下げる。
「お久しぶりです。」
「ああ。久しぶりだな。」
仕事中だからと伝え部屋に戻ると、二人は夕飯を作り始めたようだ。
小一時間ほどして食事になると、夏に集まった奴等の近況をエレンが話してるのを聞いていた。
夏に来た時より日本語がうまくなっていて、自然に話せてる。
だが、料理は得意ではないらしい。野菜の切り方が均一でないのに気づいてしまうのは羽央の作るものに慣れてしまったせいだ。
『土方さん、明日は一緒に出掛けられますよね?』
「ああ。大丈夫だ。」
みんなで出かけたいと前もって言われていたから普通に答えたが、エレンと羽央は顔を見合わせ嬉しそうに笑う。
「何時に出るんだ?」
『二時間くらいで行ける所なのでお昼すぎに出発の予定です。』
“わかった”と答え部屋に戻って仕事を片付けることに。
翌日の午前中も仕事をしていたから二人の動きはまったく把握していなかった。
出かけますよと声をかけられ車に行くと運転席の後ろにはエレンが乗っていて、助手席に乗ろうとしたら羽央の荷物が置いてある。
ちらりと俺を見た羽央だったが何を言うでもなく、俺はエレンに声をかけた。
「前に乗っ方がいいんじゃねえか?そこじゃ羽央と話しずらいだろ?」
「あっ、はい。」
並んで座らそうという思惑は回避したが、車が走りだすと二人は楽しそうに話をはじめ、気まずい状態にはならずに済んだ。
いつも見慣れた町を過ぎると知らない風景が車窓に広がり、雲の切れ間から漏れる日差しが雪を煌めかせている。
車のエンジン音が大きくて二人の話は耳に入ってこない。仕事からも解放され、いつの間にかうとうとしちまった。
車が揺れて起きた俺は窓の外を見た。そこはガソリンスタンドで、給油のついでに休憩するらしい。
車を降りていつものように俺が給油を始めると、エレンはスタンドの中に入っていき、羽央は運転で疲れたのか車の横で伸びをしてる。
『あと一時間くらい走ると着きますよ。』
「そうか。で、目的地はどこなんだ?」
『着けばわかりますよ。』
「そりゃそうだろう。なんか企んでる気がするから聞いてんだ。」
『ふふっ。』
「何笑ってんだ?」
『満タンになりましたね。支払いしてきます。』
逃げられたか……給油口を閉めると吹き付ける風の冷たさに車の中に。しばらくして戻ってきた羽央は俺にコーヒーを渡す。
「すまねえな。」
『どういたしまして。これ食べます?』
「いや。」
二人は何やらお菓子を食べ車内にはチョコの甘い匂いが漂った。