[Angel's wing]
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考え事をしてるのかぼんやりしていることが多くなった幸。週が変わるといつも自分から仕事のシフトのことを言うが、それすら忘れてるみてえだ。
「今週は、いつ休みなんだ?」
「えっ?」
「いや、たいしたことじゃねえ。」
こんなにぼんやりしていて働けているのか心配になるが、仕事があるとすれ違う生活になり時間だけが過ぎていく。
幸が休みの日、出かけないかと俺から誘い初めて会った公園に行くと幸は久しぶりに嬉しそうな顔をして、心がちゃんと俺を向いてるのがわかる。
「ここに来るの久しぶり。懐かしい……」
ベンチに並んで座ると雲一つない空を見上げる幸の横顔を見て、ふっと湧き上がる感情。
おまえが嬉しそうにしてると俺も嬉しいと思う。それが燃え滾るような想いじゃなくても、好意には違いない。
「そうだな。たまには出かけるのもいいもんだ。次に休みが重なったら、どこかへ行くか?」
「えっ、いいんですか?それなら私、休み希望出します。楽しみ!」
「どこか行きたいとこはあるか?」
場所を変えたから話せたというより、向き合おうと行動を起こしたことが変化に繋がった。
月に一度、休みを合わせ出かけるようになると話しをする時間が増える。
出会って三年も経ってから俺が天上界での仕事をしていたことを話すと、幸は疑うこともなく信じた様子で頷く。
全てを言った訳じゃねえが、肩の荷が下りたような解放感があった。
不思議なことに興味がある幸は、天上界のことやら仕事のことを聞いてくる。俺にとってはどうでもいいことだったが、聞かれたことは正直に答えた。
おまえが驚いたり、感心する顔を見るのは嫌じゃなかったしな……
月に一度とはいえ博物館や美術館。水族館。人込みが苦手な俺達にとって平日休みは好都合だった。
季節が冬になりクリスマスが近かった日、俺達はにイルミネーションを見に行った。
ニュースにも取り上げられるくらい有名な所で着くと祭りのような人出に驚かされる。大丈夫かと振り返えるとすぐ横に幸がいた。
瞳に映る光を見れば楽しそうで、進むしかねえな……
「はぐれるなよ。」
手袋をした手をとり握ると驚いたんだろう、ぎごちなさとぬくもりが毛糸越しに伝わってくる。
「……はい。」
小さい声は喧騒の中でも聞き取れたが、祭りのように流れに押されるように進むとなると話しをするような余裕はない。
「ここで終わりみたいだな。帰るか?」
「はい。」
電車も混んでいて乗った時に俺達の間に人が割り込む形になり手は離れたが、すぐ近くだし気にはしていなかった。
そのまま最寄り駅につくと先に下りていた幸が、すっと横にやってきて俺の手を握る。
寒さじゃない頬の赤さを見ると、勇気を振り絞ったんだろうなと握る手に少しだけ力を込めた。
言葉で伝えるのは抵抗があるが、大切だと思ってることは伝わったはずだ。
幸は俺の前でも飯を食うようになったし、俺はリビングに幸がいれば話をしたり二人の時間を楽しみに過ごすようになった。
日々の喜びがあってこれが充実してるということなんだろうと感じた。
二人で出かけるようになって幸は化粧をするようになり、服にも気を使い女性らしさが増していく。
それは料理にも現れ、雑誌に載ってるようなものまで作ってうまそうに食べていた。
「土方さん、食べないのは知ってますけど…食べれないんですか?食べないだけなんですか?」
「食べようと思ったことがない。料理の匂いがしても味に繋がらないから食欲もわかなし必要ない。おまえが食べてるのを見るのは楽しいがな。」
よく噛んで味わいながら食べてる姿は、食べ物に対する感謝が見えておまえらしい。
「これ、おいしくできたから……食べてみます?」
無理強いするつもりはないのだろう。食べようとすれば食べれるのかもしれない可能性があるから聞いてきたんだ。
「そうだな。少しだけ食べてみるか。」
“待っててくださいね”と嬉しそうにキッチンに小走りで行った幸は、俺の前に少し深めの皿を置いた。
「トマトのチキンスープです。」
赤い汁の中にいろんなものが入っているが、どんな味か想像もつかないものを口にするというのは思っていたよりも勇気がいる。
期待する眼差しを向けられると“うまい”と言ってやりたくて、スプーンを口に運んだ。