[Angel's wing]

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空港でみんなを出迎えた私の目を引いたのは、エレンだった。


瞳がいきいきしていて、大人しい印象がいい意味で薄れた。何か目標をみつけたのかな……


悪いニュースは何も聞いてなかったからあえて触れず、車に乗り込むとケイティがはしゃぎながら話す声が聞こえてくる。


去年よりしっかりとした話をしてる姿を見ると、一年というものがとても長い時間に感じてしまう。


私はといえば何も変わったところはない気がする……


家に着いてリビングにいた土方さんを見るとトシ≠ニかヒジー≠ニかそれぞれの呼び方で再会の声を上げて家が一気ににぎやかになった。


「土方さん、お久しぶりです。元気にしてましたか?」


その声の主はエレンで、流暢な日本語に目を丸くした私とは対照的に土方さんは“ああ。元気だ。”と冷静に答える。


勉強したの?≠ニいう声が飛び交い頷いたエレンの真剣な顔を見て、鈍い男性陣もエレンの気持ちを察した。


勉強した理由はきっと一つ。土方さんのことが好きだから。


アリアの号令で去年同様、買い出しに連れていかれた土方さん。どうなるんだろう……去年とは違う意味で気になる。


戻ってきた女の子チームは特別変わった様子はなかったけれど、荷物を持った土方さんがキッチンへ行くとエレンが後について行った。


私の所にきたアリアとカレンは二人が戻る前にと焦るように小声で話す。


「カレンと食材を見るフリしてちょっと二人から距離取ったんだけど、なんか微妙だったよね?」


「エレンあんまり話しかけれてなかったし……気持ちと行動がかみ合ってなかった。なんとかしてあげないとだよね、羽央?」


私に聞かれてもいい案は浮かばない。そもそも他の人がどうにかしようとしてうまくいくものではない気がする。


『そっとしておいてあげよう。まだ時間はあるし。』


「えーだって明日の夜までなんてあっと言う間じゃない?ヒジーが相手にしなくてエレンが傷ついて帰ることになりそう。」


アリアの考えにカレンも同感なようで表情が曇る──


『エレンと話してみる。』


そうこなくっちゃ≠ニ二人は素知らぬ顔で外へ行き、グリルの準備で土方さんが外に出たのを見計らって私はエレンをキッチンへ呼んだ。


「……。」


何を言われるのかと不安そうな顔をしたエレンは私の前まで来て足を止めると、目線を下げたまま黙っている。


“エレン、こっち向いて”日本語で言うと、はっと顔を上げた。


『話かける時は相手が聞ける状態を作ってあげることも大事よ。視線を合わせるだけで、自分に話そうとしてるって伝わるでしょ?』


「目……見れない!視界にいるだけで、日本語出てこなくなるの!」


落ち着かないのか手を動かしながら話すエレンの頬は少し赤くて、恋をしてるんだと思うと応援したくなる。


『土方さんは英語で話しても通じるんだから、無理に日本語で話さなくても大丈夫。土方さんの返事をエレンは理解できるでしょ?』


あっ≠ニ声を上げたエレンは納得したように頷くと、気持ちが落ち着いたみたいで手がすっと体の横に戻った。


『あせらず、ゆっくり。笑顔でね?』


エレンの頬を両手で挟み緊張をほぐそうと優しく動かすと、唇が綺麗な孤を描く。


「ありがとう、羽央。」


エレンをハグすると伝わる鼓動は私より早くて、ずっと昔に感じたことのあるものを思い起こさせた。


昼食を済ませるとみんなはカヤックをするみたいで、湖の方へ移動し私とカレンは片付けをする為にキッチンへ。


『片付け終わったわね。ありがとうカレン。みんなは……カヤックしてるみたいね。行ってきたら?』


「うん。先に行ってるね。」


窓の外を覗くとはしゃぐ声が聞こえる。私がいなくても大丈夫だろうと二階の書斎に行くと、総司が使っていた椅子に座った。


掃除の為に部屋に入ることはあるけれど、土方さんが来てから椅子に座ったのは初めてかもしれない。


笑わない土方さんを見てると、幸せな思い出に浸ることがなんだか悪いことに思えてしまって……


今を生きることが大事なんだって、土方さんに知ってほしかったのかも。


部屋を見渡すと目に付いたのは本棚にある総司の本。久しぶりに読もうと手に取ると物語の世界に引き込まれ、ページがどんどん進んでいく。


“コンコン”と強いノックの音に返事をすると聞こえてきたのは土方さんの声──


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