[Angel's wing]

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西暦も含めた明確な時を聞かれてる気がして答えると、ため息まじりに鼻で笑う土方さん。


いつも背筋が伸びていて冷静な土方さんとは違う。何があったというのだろう……


『立てますか?』


声をかけても動こうとしない。ここまで追い込まれるなんて、天上界で罰を受けたのかな……


罪を犯すと想像を超える苦しみを与えるのは知っている。


『もう一人の私を呼び起こしたから…何かされたんですか?』


「……そうじゃねぇ。」


力ない声は私の言葉を否定するには弱くて、出ていってからずっと苦しんでいたのかもしれないと思った。


動く気力がないなら私が背負ってでもと、土方さんの腕を首にかけると振りほどかれた。


「一人で立てる。」


のそりと立ち上がった土方さんの先を歩き家へ入ると服についていた雪が一瞬で水滴に変わる。


座っていてくださいとタオルを取りに行って戻ると、土方さんはリビングの絵をじっと見つめていた。


『これで拭いてください……』


「ああ。」


タオルは受け取ってくれたけれど、すぐに絵に視線を戻した土方さんの顔は怒っているみたいに険しい。


『日本の家……処分して持ってきたんです。ちょっと待っていてくださいね。』


コートも着ないで外に出たせいか体が冷え切ってしまった私は、お茶を用意して土方さんにも出した。


「俺は飲まねえの知ってるだろう?」


『そうですけど……飲まなくても湯呑を持つと手が温まるし。』


あれから何十年もお客様にお茶を出していると自分だけ飲むというのができない。


土方さんは腕組みしたまま動かない。気にしても仕方ないと湯呑を手にした。


一口飲んだだけで体の中に熱が伝わりほっとする。何も口にせず生きていけるのは楽かもしれないけれど、小さな喜びがなくなってしまうと思う。



土方さんは湯呑をじっと見つめている。さっきは絵で今度は湯呑?


考えてることを口にしないところは変わっていないみたい。横顔を見つめた私は記憶の中の土方さんを思い出してみた。


服以外、変わったところはない……私のほうがずっと年上になっている。


土方さんの気持ちが態度からは読めなくてあれこれ考えてしまうけれど、本人が一番混乱してるのかもしれない。


落ち着いて考える時間が必要かも……


『ここには私一人で住んでるんです。部屋もあるし、居たいだけ居てください。』


返事は聞こえない。でも、言いたいことは伝えたし土方さんのことは無理に聞いても話してくれない気がしたから触れなかった。


『私、作業するので…好きなことしてくださいね。』


ダイニングに移った私は、チャリティー用のアクセサリーを作り始め土方さんのことは放っておくことに。



そろそろ夕飯の支度をと片付けを始めた時だった。


「シャワーを浴びたい。」


『……ちょっと待っててください。着替えあるので。』


土方さんの言葉に驚きながら、階段を上る。カヤックの体験にきて濡れてしまう人もいるから、着替えはあるけど……


『お風呂、あっちです。』


「ああ。すまねぇ。」


着替えを渡すと遠ざかる背中を見つめてると、胸が痛む。


土方さん……あの時、天上界に行ったんじゃなかったんだ……


力が戻ったというのも嘘だったのかもしれない……だとしたら、嘘をつかせたのは私のせい?


電話で話をしてそれっきりだった。土方さんのことを気に留めずに生活してきた。


後悔の念に囚われ、私は立ち尽くすしかなかったーー…


「話があるんだが、今いいか?」


シャワーを浴び終えた土方さんに頷き、リビングに戻るとソファーに座わる。


「俺の力はずっと戻ってない。どうしてここに来させられたのかも、これから何が起こるのかもわからねえ。それが全てだ。」


“それが全てだ”と言われてしまうと、聞くなと言われてるようで私は言葉を飲み込むしかない。


力が戻らないなら監視役としてではない。だとしても私に係わる何かがあるということも否定できない。


土方さんをじっと見つめていると気になったことがあって、じろじろ見てしまったせいか嫌そうな顔をされてしまった。


『私、夕飯作ってきますね。』


いたたまれなくて逃げるようにキッチンへ。私は総司がいてくれたから幸せな人生を過ごせた。


土方さんはどうだったんだろう……誰か支えてくれた人がいたのか気になる。


人として生きていくのは、簡単なことじゃないから……


できたものをダイニングに並べて土方さんに声をかけた。


『土方さん、夕飯できました。一緒に食べませんか?』


「俺はいらねえ……知ってるだろ?」


『座ってください。私の話を聞いて食べるか食べないか決めてください。』


強く言うとしぶしぶながらテーブルについた土方さんは腕を組み、食べないと無言で意思表示していた。


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