[Angel's wing]

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おじさんは少し痛みがでる時もあるけれど、家族を感じながら過ごすことができて嬉しそう。


春になり暖かくなるとシャンプーをしたついでに、車いすで外を散歩したり。


おばさんが足を止めたのは桜の木がよく見える場所。


「お隣さんの庭に桜があるから花見にいかなくても見れるのよ。お得でしょ?」


『そうですね。綺麗。』


最近、おじさんの口数が少ない。表情は優しいし、問いかければ答えてくれるけれど話すことが大変なのかも。


心配だけど……それは私よりも一緒にいるおばさんの方が強く感じていることだと思うと口にはできなくて、静かに寄り添う日々が続いた。


だけど梅雨に入った頃から、おじさんの具合が目に見えて悪くなった。


食事もとれなくなり点滴をずっとしている状態で、痛みも続いている。お医者さんがくるとおばさんは“一人で大丈夫だから”と私を部屋に入れない。


その顔を見ると私に気を遣ってるのがわかり、ぎゅっと胸が締め付けられる。気持ちの上での負担をかけまいとする母の強さ。


診察が終わってお医者様が玄関に行くときに、私も居間から出て見送る。


靴を履いたお医者様が振り返り、小声で私達に告げた。


「今日、処方した鎮痛剤は意識障害が起こることがありますので。会わせたい人がいるなら早いうちに。」


「わかりました。ありがとうございます。」


冷静に頭を下げたおばさんに会釈してお医者さんは出ていってしまったのに、私は茫然とドアを見つめていた。


余命宣告もされていたし、覚悟していなかった訳じゃない。でも……おばさんみたいに冷静ではいられなくて。


そんな私の肩に手を置くと、顔を覗き込んだおばさんは薄い笑みを浮かべていた。


「痛むと本人も見てる方も辛いから今までのより強いお薬、私がお願いしたの。笑って接するのは難しいと思うけど、病気を見ないで接してあげて。みんなの顔を見れることがなにより嬉しいのあの人。」


体が痛んで苦しい思いをしてるおじさんの為なんだと自分に言い聞かせ頷くと“お茶にしようかね”とおばさんがふうと息をついた。


『おいしいお茶請け和夏ちゃんが買ってきてくれてたから、用意するね。』


私にできることはこんなことくらい。おばさんが少しでも息抜きできるようにと、私はキッチンへ。


和菓子を食べながらおばさんが欠伸をしたから、少し寝たらというとこたつに足を入れたままごろんと横になった。


おじさんの部屋に行くと眠ってるおじさんの腕には点滴がしてある。骨が浮き出ていて、もう自分では動くことすらできない。


『今日も、雨が降ってるから湿度高いね。台風が発生したってニュースで言ってた。二、三日したら九州に上陸するみたい。』


残された時間が少ないと知ってしまうと、本当に話したいことは喉につかてしまい、代わりに天気のことを話してしまう。


眠っているんだから話しても仕方ないか……微かに呼吸で上下する布団を見ていると、いろんなことが脳裏に浮かぶ。


病気になる前のおじさんを思うと目頭が熱くなって、違うことに意識を向けないと泣いてしまいそう。


『早く梅雨があけるといいね…』


私でもこんなに苦しくなるんだものおばさんはもっと……だ。


お昼寝の間だけでも気持ちを休ませてあげたいと、私は本を読みながらおじさんの傍にいた。


おじさんがこんなに眠ってるの珍しい……読み終わった本を閉じ、立ち上がり様子を確認した。


呼吸してるし大丈夫。薬が効いてるんだな……


「……ん」


眉間に力が入っりおじさんが目を覚ました。ゆっくりと瞬きしていたから視界に入るように顔をのぞき込み声をかける。


『おじさん、よく寝てたね。何か飲む?』


「あ……死んだ……のか…?」


目の前に私がいるのに虚ろな眼差しに心臓がざわつく。


『おじさん!しっかりして!』


「天使が……いる…」


その言葉に後ろを振り返ってみてもこの部屋にはおじさんと私しかいない。


魂が肉体から離れる時、天使が迎えに来る──それを記憶で知っていたからぞくりと寒気がした。


「羽央ちゃん!どうかした!」


勢いよく開いたドアに顔を向けると、おばさんが血相を変え駆け込んできた。


私が大きな声だしてしまったからだ……



『おじさん、目が覚めたら変なこと言ってたから驚いて……ごめんなさい。』


“あんた、起きてる?”と大きな声を出したおばさんは、おじさんの返事を聞くとほっとして私の方を見た。


「ううん。ごめんね。私が勝手に勘違いしちゃって。昼寝させてもらって復活したわ。ありがとう。」


“気にしないで”と寝室を出たけれど気持ちはざわついたまま。


薬の副作用だし仕方ないと割り切ろうとしても、変化を目の当たりにするとおじさんが壊れてしまうみたいで胸がきしんだ。


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