[Angel's wing]

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家に帰れば一人きり。寂しいというより私の意識は先の予定に向いていた。夏にはカレン達がくることになっているし……


アリアからはちょくちょくメールが来て、離れてる感じがしないまま時間は過ぎていった。


総司の命日にはみんなが集まって 家はいつになく賑やか。ダンからは花束が届いたけれど、どんな生活をしてるのか私にはわかない。


「私の家から数時間の所だし会ってきましょうか?」


そういったのはアリアのお父さん。だけど手紙を書いても返事がこないし突然会いにこられても迷惑だろう。


『ううん。いいの。忙しくしのかも。そっとしてあげて。縁があればいつか会えるだろうし。さっ、たくさん作ったからお腹いっぱい食べてね。』



「「ねえ、アリアはどうしていないのー?」」


声をそろえたカレンとエレンに“具合が悪くてこれなかったの”と言うと“どんな風に?風邪?”って聞いてくる。


二人は夏に来た時より細かいところに気が向くようになっていて、成長を感じる。


アリアは突然の熱でオリビアが付き添い、ここにはお父さんだけが来ていた。


みんなは会った時とあまり変わりないけど子供達の成長は目に見える。それだけ時間を積み重ねられているということが嬉しい。


新年にアリアが来て久しぶりに会うと、元気さの中にも落ち着きが出ていて、大学での様子を話してくれた。


あっという間の三日間が過ぎ、雪は窓枠の下まで積もっている。


総司が生きていた頃は今頃帰ってたな……帰るついでにおじさんとおばさんの所に寄ってお雑煮食べてたっけ。


電話すると、おばさんの様子がなんだかおかしい……


「羽央ちゃん、久しぶり。元気にしてた?」


『元気にしてます。あけましておめでとうございます。』


「あっ、あけましておめでとう。」


季節の変わり目は近況報告をメールでしていて、新年は必ず電話をしていたからやり取りはいつも同じ。


“今年は帰ってくるの?”その言葉がないことが引っかかる。ずっと日本に帰ってなかったからかとも思ったけどおばさんの声が心なしか暗い。


『おばさん、何かあったの?』


すぐに聞こえない返事に嫌な予感が走り“おばさん?”と声をかけるとおじさんが病気で入院していることを告げた。


「夏に背中が痛いって病院行ったらすい臓癌で。」


すい臓がどこにあるかも知らない私には“癌”という響きが重くのしかかる。


『大丈夫なんですか?手術とかしたんですか?』


「手術はもうできないの……羽央ちゃんには言うなって言われてたのに……ダメね私……」


『………』


震える声の向こうでおばさんが鼻をすすっていて、今聞いた言葉をもう一度思い出し“言うな”の意味を考えた。


すぐに治るから心配させたくない?それならなんでおばさんは泣いてるの?


総司の時を思うと病状をおばさんに説明させてしまうのは苦しくて……


とにかく会いにいこう。悩んでる暇なんてない──


『おばさん、私今から日本に帰るから。着く時間がわかったら電話する。待ってて。』


すぐに航空券を予約すると国内線は空きがあった。しかし、国際線は満席ーーキャンセル待ちでも構わない。きっとなんとかなる。


国内線は午後の便であと二時間ある。タクシーを呼んでから準備を始めた。


着替えを数着と貴重品だけ確認するとすぐに準備は終わり、航空券の空きを探し始めた。日本行きはどの便も満席のまま。


経由で探してみよう……すると韓国経由なら空きがあって乗り継ぎも間に合う。すぐに予約決済した。


そこまできてやっと深呼吸すると、冷静に動いていたつもりだったけどそうではなかったことに気づく。


膵臓癌……知るのが怖くないと言ったら嘘になるけど、どんな時も笑顔だったおばさんが泣くくらいの現実を私も受け止めなきゃいけない。


スマホの触れる手が文字を選んでいくと、すぐにサイトにつながりほしい情報が並んでいる。


手術ができないおじさんのステージはかなり進んでいる……だろう……


憶測であれこれ考えても仕方ない。まずは日本に帰ること。やってきたタクシーに乗り込み空港を目指した。


国際線の乗り換えが二回も入ったことで着くまで丸一日近くかかる予定。


気持ちが落ち着かなくて窓の外を見てばかりいて、日本に降り立っても帰ってきたという感覚が薄い。


電車を降り最寄駅からタクシーに乗ると、家の外でおばさんが立っていた。


「羽央ちゃん、おかえり!疲れたでしょ上がって!」


促されて中に入ると家の中は全然変わってなくて懐かしい。


だけど、おばさんは……痩せていて恰幅のよさがなくなってる。居間に行くと、テーブルに出されたお茶はゆらりと湯気をたてていた。


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