[Angel's wing]
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カレン達が帰った二日後、アリアが帰省した。ここに来てから初めてで学校に行くときとは違う空気が家に流れていた。
秋になれば高校三年になり進路を決める時期になるだろう。スポーツ課はここの大学にもあるしここにいるのかな……
お父さんと話し合う為なのか今回は自分から帰省すると言いだしたし、私が口を出すことでもないと聞いていない。
アリアが戻るまで二週間もあるし日本に戻ろうと思っていたのだけど、実際一人になってみるとここにいたいという気持ちになってしまって。
総司との思い出にアリアと過ごした時間が重なってこの家には温かくて楽しい空気が流れてる。
大切な場所……大事にしたいな……
カレンとエレンが来てる間、ざっとしか掃除できなかったしのんびり掃除しよう。
疲れたら休憩して、眠くなったらソファーでうとうとしたり。一人なせいかちゃんとしなくちゃという意識が薄まってる気がする。
アリアからは一日おきくらいにメールが来て、中学の時の友達と会ったとか買い物にいったとかどんな風に過ごしてるかわかった。
ふと、アリアはここじゃなくても生きていけるんだなって。当たり前なのにね。一人になって置いていかれたような気になってるのかな。
よくわかない感情は気にしないことにしてメールを返した。
日々を過ごしていくとあっという間に二週間経って、空港に迎えに行くと出発した時より少し日焼けしたアリアの元気そうな顔を見たら嬉しくて頬が緩む。
どちらともなくハグすると帰省する時に空港でハグしたのがずいぶん昔に感じた。
「ただいま!羽央の作った料理が食べたくてしょうがなかったよ!」
『料理だけかぁ…』
少し残念そうに言うと“それだけじゃないけど”とアリアは神妙な顔をしていて、嫌な気持ちにさせてしまったと焦った。
『冗談よ。今日はアリアが食べたいものを作るわ。何がいい?』
“そうだな”といくつかリクエストするアリアの横顔を見つめていた。
「やっぱり落ち着くー。」
リビングのソファーに座った後、背伸びしながら横になったアリア。
『疲れたでしょ。夕飯できるまでゆっくりしてたら?』
「んーでも荷物片付けないと。ちょっと部屋行ってくる。」
キャリーバックを手に階段を上がっていくアリアの足取りは軽く、若さを感じる。私はそのままキッチンに向かった。
夕飯の時間になって呼びにいくとドアを開けたアリアは、寝起きらしくまぶしそうな顔をしている。
『もう少し寝てから食事にする?』
「ううん。今、行く……」
先にダイニングに行って椅子に座っていると、手にした包みを差し出された。
「これ、うちの親から。いつもお世話になってるから羽央に渡してって。」
『気をつかわないでいいのに。開けてもいい?』
リボンをほどいて開けてみると肌触りのいいひざ掛けだった。
『素敵!使わせてもらうね。後でご両親に電話する。』
「年寄りみたいで嫌じゃない?」
『そんなことないよ。プレゼントは気持ちをもらうんだから、何をもらっても嬉しいものよ?』
「羽央ならそう言うと思った。」
気に入ったから満足そうな顔をしてるのかな?その時はあまり深く考えず、夕食を食べ始めた。
アリアのメールは短かったから、帰省していた時のことを聞きながらの食卓はやっぱり楽しい。
両親とは外食したり、義理のお母さんとも話をして関係が改善したみたい。
「中学の時の友達と会ったんだけどさ、なんか不満ばっかりで昔は私も愚痴ってたから気にならなかったんだけど、なんか違和感あったなぁ…」
同じ学校で過ごしていた時とは違い、行動を起こしたアリアは親から離れた場所で生活したことで精神的に成長したのだろう。
『いろんな経験したから価値観が違ってきたのかもしれないね。前より落ち着いた感じするし。』
「落ち着いたってお父さんにも言われた…羽央と一緒にいるからだろうって。」
いい意味であるといいなと思ってると“進路のことで話したい”ってアリアが真剣な顔になった。