[Angel's wing]
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二人はぐっすり眠っているようで規則正しい寝息が聞こえる。
疲れているのにやっぱりエレンのことを考えてしまう。お風呂を怖がったことは引きずってないみたいだけど、家に面した湖はどうだったのだろう。
家に入る時は眠っていたし、カーテンのところで遊んでいても目線が低いから気づいていない可能性はある。
でも湖は大きいから怖がるかもしれない。家の外でキャンプは難しいかも。
予定を変更することは仕方ない。でも、毎日シャワーで済ますのなんとかできないかな……
のそりと起き上がった私は寝返りで少し動いた二人に薄い布団をかけ直してそっとリビングへ。
アリアはお風呂に入ってるみたいで、水の音が聞こえる。パソコンの前に座った私は水が怖いのを治す方法はないか調べ始めた。
検索をかけると治療法から体験談までたくさんのサイトがでてくる。今まで私のまわりにそういう人がいなかっただけで、多くの人が克服できていることに希望がでてきた。
できそうなことがいくつかある……
久しぶりに画面の前に張り付いていると目が疲れてきた。
「何調べてるの?」
思いのほか近くで聞こえた声に驚くと、アリアが画面をのぞき込んだ。
『エレンの水が怖いのなんとかできないかと思って。これちょっと見て?』
克服した人のブログを見せて、こうしたら治るかもと説明したけれどアリアはなんだかそっけない態度。
『どうかした?』
「別に……。羽央がそこまで考えなくてもいいんじゃって思っただけ。預かってあげただけでも十分だよ。じゃ、寝るね。」
私のしようとしていることを否定してるというのではなく、無理しすぎないでという忠告のような声色に気持ちが高揚しすぎていたんじゃないかと我に返った。
確かに私はあの子達の親じゃないし、おせっかいかもしれない……
だけど、まだ自分ではどうすることもできない子供が問題を抱えているなら、手助けできるのは傍にいる人だ。
怖い思いを少しでも軽減できればそれでいい……
納得いくまで調べ終わるともう日付が変わってる。それほど遅い時間でもないのに、急に眠気を感じる。
色々あったし……気を張ってたかも……
寝ようとパソコンの電源を落とし、寝室に戻るとベッドには同じ体勢で右向きに眠る二人がいた。
顔の方に回り込んでみると起きてる時よりそっくりで、呼吸の速度が一緒になってる。
頭をそっとなでてからエアベッドに横になると、すぐに頭がぼんやりしてきて眠りに落ちた。
いつもとは違う寝心地なのになんだか心地よくて、ぐっすりと眠っている私を起こしたのはアラームではなくドンという衝撃音。
ぼんやりした頭で音の方向を思い出すとリビングからで、飛び起きると二人の寝てるはずのベッドが空っぽなのが目に入った。
『まさか!』
眠気も吹っ飛びドアを開けるとカーテンを閉めているはずの窓から、日差しが入りこんでる。
カーテンが半分くらいレールからはずれて数本のカーテンフックが揺れている。なぜかダイニングの椅子が窓に向かって置いてあって、その上にピンクのパジャマを着たエレンがいた。
『何をしたの!』
思わず大きな声を出してしまい椅子の下のあたりからカレンが立ち上がり、しまったという顔をしてる。
心臓がばくばくして二人の所まで駆け寄ると、カレンが立っているのはカーテンの上。
何をしていたのかわからずに強い口調のまま“どうしてこうなったの!?”と聞くとエレンが口を開いた。
「カーテン大きいからハンモックしようってカレンが……」
「大丈夫だよ!おしりぶつけただけ。」
そう言われ、私がすべきことが間違っていたと膝をつくと視線をカレンにあわせて肩に手を置いた。
『頭とか打ってない?どこも痛くない?』
“大丈夫!”と元気に笑ったカレンを抱きしめごめんねと謝ると“羽央は悪くないよ”って慰めてくれる。
カーテンが外れてしまったことくらいたいしたことないのに、驚いた勢いで怒ってしまった。
一番に怪我がないか確認するべきなのに……
エレンは椅子に座ったままでどこも打たなかったようだけど、私はカレンから体を離しエレンを抱きしめた。
『怒ってごめんね。家の中でも怪我することがあるから、やってみたいことがあったら聞いてほしいの。』
腕の中で頷いた頭を感じて体を離すと“ごめんなさい”と謝ってくれた。
『ハンモックはね太い木にロープでしっかり巻き付けないと危ないの。うちにもあるから後でやってみようか。』
二人が嬉しそうな声を上げた所でアリアが起きてきて“何これ”というのでハンモックしようとしたんだってと伝えると大笑い。
「あはは。斬新だなーそういう発想力いいね。誰のアイデア?」
“わたし!”と得意げに手を上げたカレンを見て、そういう褒め方もあるんだなって感心した。