[Angel's wing]

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翌日、アリアの熱は下がりいつも通り学校へ送っていった。


陽が昇ったのをみはからいスノーシューで散歩していると家の横にトラックが来たのが見え、車体に描かれてるのは宅配業者のロゴ。


『すいませーん』


再配達となると手間をかけてしまうと大きな声を出すと、木々の間にいた私に気付いたみたい。


できるだけ早く歩いて戻ると差し出された箱は二つ。大き目の箱には花のイラストが描かれていて、小さい箱は白地だった。


大きい方はアリアのお父さんからで、小さい方の送り主はダン クラーク。きっと彼も移植を受けた一人だろう。


サインをして受け取ると配達の人は寒そうに背を丸めて車に戻っていく。


スノーシューを玄関先に立てかけ、家へ入った私はリビングのテーブルに箱を置き、深呼吸してから小さい方を開けてみた。


そこには真紅の大きな薔薇の花が一輪。透明なビニールに包まれ、赤いリボンが茎の下の方で結ばれている。


取り出してみると手のひらほどのカードが入っていて、また新しい出会いがあるという期待にせかさせるように開けた。


カードの中央に“Thank you”と書いてある。だけどその文字を見たら素直に喜べない。


並んだアルファベット小さくて勢いのない字体は彼の心なのかなって。


大丈夫なのかな……電話してみようか。お花をありがとうと伝えるならそれが一番いいような気がして伝票に書いてある番号にかけてみた。


発信音が聞こえるだけで留守電になることもない。かなり待ったけれど繋がらないまま。


また後でかけてみよう。仕事中なのかもしれないし……


アリアのお父さんからの花束はいろんな色が混じっていて、明るい印象だ。


一輪挿しはあったけれど、大き目の花瓶は昨日もらったお花をいけてしまったからアリアのお父さんからのお花はワインクーラーに入れ後で花瓶を買いにいくことにした。


また部屋の雰囲気が変わり賑やかになった。でも自然とダンの花に目がいってしまう。


ダン……どんな人なんだろう……


アリアのお父さんに電話すると、昨日届くようにしたそうだが遅れてしまったよう。こっちでは遅れることもよくあるし……


「アリアはどんな様子ですか?」


『元気にしてますよ。勉強もがんばってるし家事も手伝ってくれるので助かってます。』


「そうですか、本人とはメールしてるんですが運転免許の試験を受けに行くと言っていて、私はまだ必要ないだろうと言ってるんですが。」


『その話は聞いてませんでした本人に聞いてみます。私はお父さんが賛成しない限り認めるつもりはないので。』


「よかった…よろしくお願いします。」


ほっとしたようでそこで電話を切ると、ダンのことが気になり電話をかけてみるとコール音が続くだけ。


アリアを迎えにいくまでで数回かけてもどれも同じ状態だけど、お礼だけでも伝えたい。


すぐに伝えるならショートメールで可能だけど、手紙の方がきちんとしてる気がしてお礼と近況を書き封を閉じた。


仕事で忙しい可能性もあるし、冬の時期に家にくるのは大変。そもそも会いたくない可能性だってある。


電話がこなくてもこれ以上しつこくするのはよくないかも。迎えに行く途中でポストに投函して気持ちに区切りをつけた。


「あれ、薔薇が増えてる。」


『アリアのお父さんからと、ダンから。』


「ダンは来たの?」


二つとも宅配で来てお礼の電話をしたことを告げ、免許の話をしてみた。


「羽央は、父さんがいいって言えば認めてくれるんでしょ?」


そうだと答えると“まかせておいて”と不敵な笑みを浮かべ、軽い足取りで二階に向かう。なんとなく……了解とってくる気がした。


迎えに行く途中で買った洋風の白い花瓶に花を移すと、一段と綺麗に見える。


リビングで花を眺めているとしばらくしてアリアのお父さんから電話が来て、免許を取ることを許したとの連絡が。


二階のドアが開いた音がして視線を向けると、アリアがピースサインしてる。


『わかりました。私もよく見ますので。はい。それじゃあ。』


満面の笑顔を見たら本当に免許を取ることが目的なのかなと疑問を持ちつつ電話を切った。


「ちゃんと話したよ。とりあえず筆記試験受けたいって。それから仮免許になっても一人で運転できるようになるまでは三年かかるでしょ?大学行くなら忙しくなるだろうし今がベストだって言ったの。ここなら車多くないし都会より安全でしょ?」


『確かに色々段階があって、一人で運転できるまではそれくらいかかるけど。大学のこともう考えてるの?』


「ううん。お父さんは行って欲しそうだから出しただけ。私は自立したいなっていう気持ちの方が強いから。」


お腹すいたーとキッチンに行ってしまったアリアの後ろ姿を見て、何か言うべきだったのだろうかと考えた。


私は親ではないし……


普通のレベルのことはわかるけれど、年齢に応じた学校生活を送っていないからアリアにアドバイスもできない。


小さな迷いの種が芽を出したような気がした。


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