[Angel's wing]
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「大丈夫なのか?」
リビングに行くと気遣うような口調で言われ、鏡に映った自分を思いだした。顔が別人の域だったし……
『目の腫れはしばらくすれば治ります。酷いですよね。』
「そうじゃねえ。」
泣いてたの……聞こえてたのかな……
『大丈夫って言い切れないですけど、ダメでも仕方ないのかなって思ってます。』
意味が通じなかったのかじっと私を見つめていた紫の瞳は、どことなく優しかった。
今、胸につかえてるものを取り出さなくちゃいけない。駄目な自分なりの考えを……
『家に帰ってきてから寝室に入れなかったんです。入ったら色んなこと思い出して涙が止まらなくって……でも、逃げてちゃだめなんですよね……
今の私はきっと総司が望む私ではないんだろうけど、悲しみにくれる私も私。ゆっくりでも自分のペースで生きていけばきっと総司も“それでいいんだよ”って言ってくれるはず。』
悲しみにくれて大切なものを置き去りにしたくない。一つ一つが宝物だから。
『土方さんがいてくれたおかげです。ありがとうございました。』
「俺は何もしてねえよ。」
『“ちゃんと寝ろ”って言ってくれたじゃないですか。あれがなかったら、私ここで寝てたと思います。』
テーブルを指差すと土方さんの口角が少し上がって、土方さんも笑うんだって意外な一面を見た気がした。
テレビもついてない所をみると、ずっとソファーに座ったままだったんだろう。
『後で洋服買いにいきませんか?』
「いや、必要ないだろう?」
この言い方じゃ同じことの繰り返しになってしまう……
『スーツじゃ仕事してるみたいで私が落ち着かないです。さっ、いきましょう!』
「わかったよ……」
立ち上がった私はさっとメイクしてコートを羽織った。疑問形だから会話が途切れてたんだ。
昨日と同じことをしてるのに、見える風景も土方さんも違って見える。
自分次第なんだって……思えた。
「好みじゃない。」
どれでもいいというから見繕った服を渡すと、試着する前から否定されてしまう。
『似合いますよ?』
「柄ものは落ち着かねえ。」
奇抜なものは選んでないつもりだけど、土方さんは認めてくれない。最終的に無地なものを選んだ。
「もったいねえ。」
『……意外です。』
天上界の人にそういう価値観があるとは思わなくて本音が零れると、“世間知らずみてえな扱いだな”って。
『間違ってはないですよね。仕事で地上に来るだけだったし。人の生活を学べってことなんじゃないですか?』
「……まあ、そういうことにしておくか。」
土方さんは本当にこれからどうなるかわかってないみたいで、話をしてない時はそのことを考えているのがわかる。
のん気だと思われてもかまわない。答えがない問いは一人の時に考えるだけで十分。
誰かが違う方向があると教えてくれるから見えることもある……
抱えるものは違えど現実を受け止めようとする気持ちは同じだった。