[Angel's wing]
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土方side
すぐに二人の家の中に降り立つと暗いリビングは広く、総司のマンションとは全然違う。それだけ豊かな暮らしができてるということか。
物質的なもので幸せは図れないが、片づけられている部屋はきちんとした生活ができてるということだ。
小さく音を立てたドアから光が漏れると、暗がりにいる俺には羽央の姿が見え後ろに回り込み意識を失わせた。
倒れる体を受け止めソファーに寝かし、記憶を操作する時のように記憶をさかのぼっていくと羽央の記憶は残っている。
その時点で目覚めさせることは賭け──
どうやるのか知ってた訳じゃない。この仕事を長い間続けていたが故に見つけた方法。
だめだったか……
すぐに目覚めない羽央に諦める気持ちが芽生え始めた時、起きがり羽央が俺の名前を呼んだ。
『土方さん……?』
年月が流れ人になったお前の容姿が変わっていても、俺の時間は流れずあの時のまま。そう思っていたがこうして向き合うと普段感じない“懐かしさ”がある。
これからを告げることで羽央がどう思うかと考えると、うまくお前を呼び出せたことを喜ぶことなどできない。
二人がどう生きてきたのはさっき見えたが、全部を説明する必要などないだろう。
羽央が幸せだと思えることだけに導くように“聞きたいのは沖田羽央のことか?”と言えば結婚したことに行き着く。
だが、それだけで満足することなどできなかったのだろう。二人がどう生きたのか知りたいとあの頃と同じ瞳で頼まれた。
天使の見習いだったんだ、どんな状況でも受け入れられるだろうと記憶を見せた。
これもルール違反だが……すでに一度、規則を破ってる俺にとっては同じこと。
神妙な顔つきの羽央にはどう見えたんだろうな。愛し合う人と結ばれればそれだけで幸せに暮らせるおとぎ話とは訳が違う。
ただ、二人の精一杯だったと認めてやればいい。幸せの形は人の数だけある。
寝室で音がして俺は姿を消すことに。総司に会うと質問攻めにあいそうだし、いつ天上界の奴等にこのことがバレるかわかない。
時計を見れば次の仕事の時間だ。羽央に呼ばれた時にちゃんと戻れるといいが。
この仕事を引き受けてからずっと規則通りに来なしてきたが、違反したときにどうなるかもそうなった人がいたのかも知らない。
俺の時間もあとどれだけなのか……
仕事を急いで終わらせたると、人になった羽央が俺を呼ぶことができないかもしれないと二人の元に戻った。
まだ、話しは終わってねえのか。聞こえてきた声と物音で何をしてるか想像がつく。間が悪い……
引き出しを開けたタイミングで姿を現すと、疑った様子もなく赤くなった目が俺を見つめた。
後悔ないようにと思ってしたことだが、俺には悲しんでるようにしか見えなくてこれでよかったのかと自問自答しちまう。
意識を返してほしいというから、“本当にいいんだな?”と確認すると総司が口を出した。
「ほんと不法侵入好きですよね。それにここ土足厳禁なんですけど。」
「口が減らねえやつだな。汚しちゃいねえよ。」
自分が倒れるっていうのにそんな事言ってる暇があるなら、羽央に優しい言葉をかけてやれってんだ。
喉元まで出かかるが羽央の前で無意味な喧嘩なんてしてる暇はない。
いつものように記憶を選んで消せばいいはずだったが、消したことを確認すると消したはずの記憶が見えてしまう……
どういうことだ?今度は確実にと意識を集中させ記憶を消すと羽央は意識を失い、その体を受け止めた。
「いつもと手順が違うから眠ってるが、心配ない。五分もすりゃ目が覚める。」
意識の深い所まで入ったからだが、これで記憶が消えてなかったらまずいかもしれない。
「土方さんは羽央ちゃんが好きだから、彼女の望みを叶える為に仕事じゃないことをしたんでしょ?」
そんなことを話してる余裕なんてねえ。記憶がうまくコントロールできなかったら、二重人格のようになる可能性だってある。
だが、それはこっちの話で総司に言ったところでどうにもならないことだ。
二十歳の頃よりもしっかりした顔つきは頼もしく感じるが、嫉妬心はかわらないな。
それだけ羽央を愛してるってことか……
俺と話してる時間があるなら他にもっとすることがあるんじゃねえか?と突き放しここを去ろうとしたが、総司は煽ってきた。
それでも無視すると急に目を見開き“羽央も死ぬの?“と核心をつく。
俺にはわからないことだ。人になった天使は人として生きていけるのか。それとも愛する人からの愛がなければ命が尽きるのか……
ただ、総司の愛で瀕死の状態から回復するのを目の当たりにした俺には、あいつが一人で生きていけるとは思えなかった。
俺に対して反発的な態度を見せていた総司だが、羽央のことを話しているうちに真剣な顔でふさぎ込んだ。
何があっても羽央を守りきるんだといわんばかりの眼差しは、現実と向き合って生き抜いた強さを感じる。
俺も総司も羽央の未来を諦める訳にはいかねえんだ──