[Angel's wing]

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テレビ局に行くとADが控室に来て、プロデューサーが呼んでると違う部屋に案内された。


長テーブルを二つ合わせ、パイプ椅子が向かい合って六つある部屋で、腕組みをした彼は一人で真ん中の椅子に座っている。


「沖田君、忙しいのに悪いね。座って。」


深刻そうな声が嫌な感じだ。顎で場所を指示され正面に行くっても、目を合わせようとしない。


例の件のことについて聞かれるんだと思いながら座ると、カタンとパイプの金属音が響いた。


「沖田君……あの週刊誌のことなんだけどね。」


テーブルに置かれたプロデューサーの手は指を組んでいて、その指先は落着きなく動いてる。


何か圧力でもかかってるのかな……だけど、憶測の段階では聞けないし。軽い感じで口火を切った。


「週刊誌の記事見ました?根も葉もないこと書かれて迷惑してるんです。僕には恋人もいるのに。もちろん女性ですよ。一般人ですからプロフィール出す訳にもいかないし放置してるんですけど。お互いいい迷惑ですよね。」


「あ、ああ……」


僕の言葉を聞いた後、彼の顏は尋常じゃない量の汗が浮かびもみあげから顎へ流れ落ちると慌ててハンカチで拭いていた。


不安そうに動くプロデューサーの目は追い詰められたネズミみたいで、あの記事にも本当のことがあったんだと気付いた。


彼が記事に書かれたことをしていたっていうことを。


そういうの割と敏感な方なのにどうして気づかなかったんだろう……


最初に品定めするような視線を向けられたけど、熱を帯びた眼差しはなかったよね。単に僕がタイプじゃなかっただけか。


彼が今持ってるのはこの番組だけ。それらしい対象の出演者はいないとなると、過去の番組であったこと。


今さら蒸し返されるって、本人が一番驚くよね。


「誰かに恨まれたりしてたんですか?」


はっと顏をあげ僕と視線がぶつかるとばつが悪そうに俯いた。心当たりがありそうな表情に、あのプロダクションの名前が聞けるかもと思った。


「この業界はいろいろあるから……迷惑かけて悪いね。番組じゃ取り上げないから、よろしく頼むよ。」


言う訳ないか。番組で取り上げないのは自分の身を守る為。


僕の潔白を晴らしたいっていうのはあるけど、差し止め請求を諦めた時みたいな虚しさがあった。


「……わかりました。」


そう答えたのは、この番組に出させてもらったことによる恩恵を受けたのも事実で。


彼が記事のようなことをしていたとしても、相手がぶらさげられた餌にしっぽを振り同意の上でなら僕がどうこう言えることじゃない。


表沙汰になったのは僕のせいだし……


全てをぶちまけるのは簡単なことだけど、伯母さんの家や知り合いにまでマイクが向けられることは避けたい。


次の収録に行ってもまわりの反応は変わりなくて、知ってか知らずか誰も記事については触れてこない。


仕返しがあるかもしれないという警戒心は徐々に薄れていった。


羽央に今まで通りだと伝えても、どこか信じきれないみたいだ。


『何も言われないならよかったって思うべきなのかな……』


「噂の類だと思えばいいやって思うことにしたんだ。」


『そうだね、いつまでも気にしていてもよくないし。』


そんな会話から二ケ月後──


番組改変の時期に僕のレギュラーは全部なくなり、特番にも呼ばれなかった。


あの記事の影響とは言い切れないけど、何かの力が入ったのは明らか。事務所に聞いても先の仕事は本当に一つも入ってないらしい。


ワイドショーは番組自体終わってしまい、ドラマの再放送枠になったしね。


こういうのが干されるって言うんだろうな。途中降板では波風が立つけど、改変の時期じゃ飽きられたで済む。


仕事がなくなる焦りを感じなかったのは、自分で辞めるタイミングをみていたせい。本の宣伝という意味ではいい結果が出せたし本を書きたいと思っていたから。


事務所が借りてくれていたマンションから出て、自宅に戻った僕は一週間のんびりと過ごした。


寝る時間も取れないほど仕事をしていたせいか、一週間が一ケ月にも感じる。


本を書きたいと思っていたのに、いざ時間ができると何も思いつかない。


その場その場で対応して話すことしかしなかったせいなのか、僕の頭は深く考えることができなくなっている。


かなり衝撃だよ。自分のことはなんでもわかってるつもりだったのに。


本の宣伝と引き換えにしたものは大きかった。息を吐くと溜息で僕は天井を見上げた。俯くことは負けだと──


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