[Angel's wing]

□83
1ページ/8ページ


総司が帰ってしまうと町はクリスマス一色。いつもは静かな町も活気にあふれていた。


クリスマス休暇を利用して旅をする人も多くて、私の予定は新年までぎっしり詰まってるしがんばらなくちゃ。


仕事だけじゃなく家事も全部一人でこなすのは久しぶりだけど、やってきたことだものやれるはず。


『ふぅ。思ったよりもできる……』


やるべきことを一通り終わらせても、まだ時間がある。ケリーと一緒に過ごす時間が多かったんだと改めて思った。


『出て行ってから連絡もないけど、元気にしてるかな……』


誰も答えないのは当然だけど慣れるまで独り言が続きそう。


総司からの電話は毎日あって、仕事と家事をこなしてるうちにカレンダーが一枚。また一枚とめくられていく。


夏になると私の忙しさはピークを迎え人を雇おうかと考えた。


でも、煩雑な日常の中で一から仕事を教えそのチェックを私がするなら自分でした方が早いしと雇わないことに。


ガイドとして動いてる時もオフの時もバタバタで、気づくと夜になってる。冬の余裕はもうなくなっていた。


そんな忙しさは総司との会話の中に出ていたのかもしれない。


電話が一日こないことがあっても総司が気を使ってくれたんだと思って、そのまま寝てしまう。


でも、それは私にとって都合のいい解釈。日々仕事をこなすのにいっぱいいっぱいで、総司がどう思ってるか考える余裕はなかった。


木々が黄色く色づき始め、総司が去年航空券を買ったのは今くらいの時期だったことを思い出した。


仕事が入っていて去年は迎えに行けなかったから、ちゃんと聞いてスケジュール調整しないと。


『今年はいつくらいに来る?今年はちゃんと迎えにいきたいから。』


「ん……まだ、決めてない……」


沈んだ声に聞いちゃいけなかったと後悔しながらも、どうしてそんな言い方をするのかわからなくて。


決めてないなら“そろそろ決めないとね”って言ってくれるだけでいいのに。


会いたくないのかなって不安になるよ……


『そう。じゃあ決まったら教えて?』


沈む気持ちを悟られないように明るく返したけれど、総司の言い方は冷たかった。


「うん。そろそろ切るよ。」


『わかった。おやすみ。』


いつから総司は“またね”って言わなくなったんだろう。


“そろそろ切るよ”その言葉に違和感がないのは、言われ慣れてたから。春は…またねって言ってた気がする……


総司の変化に気づかなかったのは、忙しさにかまけていたからだ。


“離れても私達は変わらない”一年前ははっきりとそう言えたのに……今は自信がないよ……


それからしばらくすると航空券を手配したと連絡がきてほっとした。


ジェイソンは夏に来たお客さんと付き合いだして、国内だけど遠距離恋愛をしてる。


総司が来ると仕事は休みになるから、早くスケジュール決めてくれって言ってた。きっと会いにいくんだろうな。


恋をしてるジェイソンの生き生きとした表情を見るたびに、総司のことを考えてしまう。


会いたいって思ってくれてるかな…会ったら二人の時間を喜んでくれるかな……


総司が来る前日、寒波がやってきていて飛行機は全便欠航だったけれど当日は曇りで無事に到着した。


総司に会えるのを楽しみに頑張って、うきうきした気持ちで迎えられるはずだったのになんだか緊張する。


到着口で待っているとかなり厚着した総司を見つけて駆け寄った。


『総司、久しぶり!』


「……うん。」


笑顔を作った総司だったけど、痩せてて頬がこけてる。鼻声だし……


『体調悪いの?』


「風邪ひいてるだけ。大したことないよ。」


おでこに触ると少し熱い気もする。立ってるのも辛そうだったからすぐに車で家に向かった。


助手席に座わると腕を組んで目を瞑ってしまった総司の様子をちらちら見てしまう。


大丈夫かな。時差ボケもあるし体は余計負担がかかる。とりあえず家に着くと熱を計ってもらった。


『37.2度……微熱あるから寝た方がいいね。何か食べる?』


「食欲ないしいらないよ。寝てもいい?」


『うん。ゆっくり休んで。』


寝室についていき総司がベッドに入ったところを見届けて、リビングにいくとソファーに座った。


総司の体調が心配だけど、そばにいれなかった……


風邪をひく前から具合が悪かったんじゃないのかな。電話していても気づかなかいなんて……


自分の不甲斐なさを感じると、総司に対して抱いていた不安がばからしくなった。総司の方が不安だったかもしれない。


よしと立ち上がった私は、お腹がすいたらすぐに食べれるようにとお粥を作りにキッチンへ向かった。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ