『Angel's wing』

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何度か会ったお客様から、お土産をもらうことがたまにある。


お風呂から上がった私は冷蔵庫に冷やしてあったボトルを手に、リビングにいたケリーに声をかけた。


『ケリー、これお客様から貰ったから飲んでみる?イタリア産。』


スパークリングワインのボトルを見せると少し表情が曇って、どう断ろうか迷ってるみたい。


『飲めないならいいの。気にしないで。お客様に感想を伝えたいから飲もうと思って。』


彼女がお酒を飲んでる所を見たことなかったし、お酒を飲めるのか知らなかった。


私も飲む機会がなかったから誘ったのは初めてだけど、ケリーが飲めないなら一人で飲もう。


「少し飲もうかな……あんまり強くないから。」


『そうなの!私も明日仕事だし少しだけ。用意してくるね。』


一人で飲むと思ってたから嬉しくて、キッチンに行くとグラスとおつまみになりそうなものをリビングへと運んだ。


普通よりも少ない量を注ぎ乾杯した後、飲んでみたけれど二人の反応は正反対。


『辛い……』


「おいしい……」


こんなに辛いのがおいしいならお酒強いんじゃと思いながら、ケリーを見るとあっという間にグラスが空いた。


ふぅと大きく息をついた彼女は、ふにゃりと笑ってる。


『……大丈夫?』


「ん……いい気持ち……」


いつものきりっとした感じが少しのワインでなくなってしまい、思わずグラスを見つめてしまった。


半分より少ないけど…酔ってる……


“もう少し飲みたい”と言われ、同じくらい注いでみると今度はゆっくりと味わうように飲んでる。


こんな時、観察してしまうのは羽目を外して飲みすぎちゃうお客様を何度も見たせい。


顔は赤くなってないしアルコールアレルギーはなさそうだけど、大丈夫かな……


「甘いものが食べたい…」


『甘いもの?アイスくらいしかないけど…もってこようか?』


“うん”と幸せそうに笑ったケリーは、グラスをテーブルに置いてソファに背中をあずけてる。


もう飲まないんだろうと安心した私は、冷蔵庫へアイスを取りにいった。


何味がいいんだろう……無難な所でバニラかな……私も食べようと二人分持っていくと自分の分を食べ終えた彼女は無言でキッチンへ。


他の味が良かったかなと思っていたら、ストロベリーアイスを容器ごと持ってきて直接スプーンで食べ始めた。


1リットルの容器の八割くらい入っていたけれど、次々口へと運ばれ半分くらいになってる。


何かに取りつかれたように食べる姿を見て、このままにしちゃいけないんじゃないかって……


『ケリー、そんなに食べて大丈夫?』


その言葉にはっと私の方を見ると手元のアイスの容器に視線を移し、眉間に皺をよせながら苦しそうに目を閉じてうなだれた。


『大丈夫?気持ち悪いの?』


慌てて立ち上がった私は彼女からアイスの容器を取り上げると顔を覗きこんだ。


「……また……やっちゃった……」


うなだれたままそういった彼女の肩は小さく震えてる。何が“また”なのか……


『ごめん……私がお酒勧めたから。お水飲む?もってくる……』


ケリーはうつむいたまま頭を横に振ったけれど、酔いをさました方がいい。


持ってきた水を手渡すと少し飲んでテーブルに置いた。


さっきまでの笑顔はなくて酔いはさめたみたいだけど、沈んだ表情に抱えてるものがあるのは確かで。


誰だって聞かれたくないことはある。無理に聞き出したくない……


『どうせ食べるなら一緒に食べよう?食事の時みたいに、ね?』


「……っ……もう、食べない……」


震える声は彼女のものとは思えなくて、胸が詰まるような苦しさがある。


声もかけれずいたたまれなくなった私は、アイスが溶けていくのを見つめるだけ。


急に彼女は立ち上がるとアイスのボックスを戻しに行き、ソファーに浅く座った。


「羽央……ごめん。私、お酒飲むと甘いものが抑えられないの。気持ち悪くなるか、なくなるまで食べ続ける……病気だよね……」


視線はテーブルに向けられたまま告げられる言葉は、ずっしりと重い。


頭に浮かんだのは摂取障害……入院していた時に患者さんに聞いたことがあって、まったく知らないことでもなかった。


『普通の時もこんなに食べる?吐いたりする?』


力なく横に振られた頭に少しほっとした。お酒を飲むと欲求が抑えられなくて一時的に食べてしまうならストレス発散とかやけ食いに近いのかもしれない。


ただ、取りつかれたように食べるのは見ていて心配になる。


長いソファーに一人で座る彼女が不安そうで、私は隣に行きその背中をさすった。


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