『Angel's wing』
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目を開けるとカーテンから洩れる朝陽が壁を照らし眩しい。
隣を見ると羽央が気持ちよさそうに眠っているのが見え、自然に頬が緩んだ。
聞こえるのは君の寝息と鳥の声だけで“今”を感じる静かな朝にわくわくする。
これは夢じゃない…穏やかな寝顔を見つめながら、目が覚めたらなんて言おうとじっと待ったけど……起きないな。
肘をたて諦めたようにどさりと掌に頭をのせると、急にかっと見開いた君の目。
そんなに驚かなくてもいいのに……
『おっ…おはよう…コホッ…』
羽央は少し掠れた声を出し咳払いした。昨日の激しさを考えたら仕方ないか。無理させちゃったし…
でも、あんなに濃艶な君を見せるのは僕だけにしてよ?
「おはよう。何か飲む?持ってこようか?」
無言で首を振った羽央はだるそうにうつ伏せになると大きな枕に顔を半分埋めながら、僕の方を見てる。
すごく無防備で幸せそうに見えた……
「目が覚めてすぐ羽央が隣にいるか確認したよ。夢じゃないって…こんな風に朝が来るたび幸せを感じて生きていけるんだね。」
髪を耳に掛けてあげると羽央がもぞもぞと僕の胸にすりよってきた。
『私も幸せ…』
やっと手にいれた幸せを守っていくと心で誓いながらも言葉にしないのは、この幸せな時を音で壊したくなかった。
だけど、嬉しすぎて涙腺緩みそう…そんな姿を羽央に見られるわけにはいあかない。
“続き…する?”って冗談で誤魔化してお尻に触ったら怒られたけど、じゃれあうのも楽しいでしょ?
君に押されて仰向けになったら、お腹が大きな音を立てた。
「お腹すいた…」
『総司のお腹がぐーぐー鳴ってるの初めて聞いたかも。何か作るね。』
そう言った君は布団からするりと抜け出て、ベッドの端においてあったパジャマを着て微笑むと、部屋を出て行った。
僕、留守番させられたペットみたいなんだけど…
すぐに羽央の後を追うと、コーヒーを入れようとサイフォンを準備してる所で後に回り込んで抱きしめた。
『ちょっと…準備が……』
「どうやるのか見てるんだ。僕も使い方を憶えようと思って。」
『…そっか…うん。じゃあ最初から…』
くすっと笑った後、説明してくれた羽央の声は弾んでいる。
君の肩に顎を乗せたまま相槌を打ちながら見ていると、あっという間にコーヒーが出来上がった。
「ねぇ、羽央は朝、コーヒーどこで飲んでたの?」
『窓の前のスツールだけど、どうして?』
「羽央がどんな風にしてたのか見たい。いこう!」
マグカップが二つ乗ったミニトレイを持った総司は、私の手をひっぱりスツールに行くと座らせた。
「はい、どうぞ?」
マグカップを渡され湖を見ながら一口飲んでみたけど、総司の視線を感じながらではいつも通りなのかわからない…
『…こうかな…よく憶えてないんだけど……』
「うん、雰囲気が分かったからそれでいいんだ。同じ椅子を買って羽央と一緒に湖を眺めながらコーヒーを飲みたい。」
立ったままコーヒーを飲む総司はそう言って嬉しそうに目を細めると、窓の外を眺めた。
ぐーきゅるきゅる……
コーヒーが薫る静かな時は総司のお腹の虫に邪魔され、私は笑いをこらえながらキッチンへ。早く食べさせてあげないと…
簡単な朝食を作って出すと、よほどお腹がすいてたのか総司は真剣な表情で食べてる。
真顔すぎて美味しくなかったかもと心配したけど、食べ終わると満足そうに息をついた総司。
「羽央は今日の予定どうなってるの?仕事あるの?」
『明後日からツアーが入ってるから、確認作業があるけどそんなに時間はかからないと思う。』
「じゃあ、それが終わったら町に出掛けよう?」
『うん、天気いいし。』
その時はうきうきして答えたのだけれど後片付けをしてパソコンに向かうと、メールが何件も入っている。
ここ数日、バタバタしてたし…ツアーの問い合わせや入金確認。どれも後回しにはできない。
時間がかかると正直に伝えると、テレビを消した総司はソファーから立ち上がり私をぎゅっと抱きしめた。
「僕のことは気にしなくてもいいから、仕事して?二階に行ってるから。」
『ありがとう。頑張るね。』
“そんな暗い声ださないの”と脇腹をくすぐられ、膝からが崩れ落ちた私を立たせた総司はウインクを残して二階へ向かった。
誰もいなくなったリビングで深呼吸して気持ちを切り替え、画面の前に戻るとミスがないように慎重にメールを書いていく。
全部終わっると午後三時を回っていて、お昼御飯も食べてない…どうしよう…
慌てて二階に行きノックすると、朝食をたくさん食べたからお腹はすいてないと言われ、そのまま車で町にいくことにした。