『Angel's wing』

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階段の手前で…うつ伏せになってる……私を驚かせようとして悪い冗談……とか……?


飛び出しそうなくらい鼓動が大きな音を立てているのに、夢をみてるみたいで…


瞬きもせず見つめても変わらない光景が現実だと思ったら、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。


『そっ………そぅ……』


腰が抜けてしりもちをつくと、頭が真っ白になって名前を呼ぼうとしてもどもるだけ。


たっ…助けないと…


立ち上がろうすると足がもつれ転んでしまった。床が目の前にあって、顔を上げると倒れた総司が見える。


何やってんの…早くいかなきゃ…焦るほど体は言うことをきかなくて、立ち上がるとまた転んだ。


気持ちだけが先走って体がついていかないけど、起き上がる度に近づく距離しか頭にない。


転んで打ちつけた膝の痛みなんて感じる余裕すらなかった。


総司の横に辿りつくと背中がゆっくり上下してるのがわかる。


『……そっ…総司…?』


肩のあたりに手を置き声をかけたけれど反応がない。脳梗塞、心筋梗塞…突発的な病気の可能性もある…


『…総司…聞こえる?…ねぇ…総司…っ……総っ……目……開けて…よぅ……』


髪に隠れた頬に手をあて声をかけても、ぐったりとした総司を見ていると声が恐怖に震えていく。


【自然の中に行ったらお客様はガイドに命を預けることになるわ。どんな状況でも適切な判断を下せるようにね。焦ってしまいそうになったら感情を殺して状況を見るのよ?】


谷さんに言われた時は“はい”と答えたけれど、こんな緊迫した状況になったのは初めて。


完全に素に戻って怯えている。今は感情を切り離して冷静にならないと総司を助けられない…


目を閉じ胸が膨らむくらい息を吸い込んで、私の中にある不安を一気に外に出すように、息を吐いた。


冷静に今の状況を考えて──…


意識を失う前に頭痛があったし、命の危機とい言っても大げさじゃない。


とにかく病院へ。私一人で意識のない総司を車に運べる?


『救急車呼ぶから…すぐに病院に行けるからがんばって……』


声をかけ立ち上がると、ポケットから携帯を取り出した。


しっかりしないと…911…押したことのない番号を押す指先は震えていない。


発信音を押そうとした時、カサカサと軽い素材がこすれる音がして総司へ目を向けた。


手をついて起き上がろうとしてる……


すぐさま腕に抱きつくように支えると座る体勢になったけど、視点が定まらない総司に頭の中で警鐘が鳴る。


『とりあえず病院に行きましょう。ここじゃ何かあったら対応しきれない。』


「……行かないよ。寝れば大丈夫だから…」


私の手を振りほどくと苛立つように立ちあがった総司だったけど、その体は不安定に揺れた。


『あっ…!』


傾く体に声を上げたけど、総司は階段の手すりを掴んだまま膝まづいていた。


病院に行くことが違う意味で危険を招く。行けないのはわかってるけど…


もう一度話してみよう駆けよると、手すりを握りしめる筋張った手が見え諦めた。


総司を説得するなんて、きっとできない。


『わかった…病院は行かない。とりあえず私の部屋で寝て。それが交換条件…さっ、立ちますよ。』


総司の腕を首に回すと、声はしなかったけど頷いたのがわかった。


立ち上がっると肩に感じる重みは昨日よりもあるけど、どちらか半身に力が入らないという風でもない。


考えていたような病気ではない気がして少し冷静になれた。


ベッドに着くと疲れ切った様子で横たわった総司は閉じようとする瞼を必死に開けてる。


体を動かすのもだるいのか枕にきちんと頭が乗ってなくてもそのまま…


首の下から後頭部を持ち上げ枕に頭を乗せると落ち着いたのか大きく息をはく音が聞こえた。


『ゆっくり眠って…?ここにいるから。』


「うん………」


子供みたいな…素直な声──…


布団をかけると安心したように瞼を閉じた。


強がらない総司を見たら泣きそうになって、唇を噛みしめ静かに窓辺へ歩いた。


こっちに来た時から具合が悪かったのに、軽く考えていた私に責任がある──…


午後の日差しが湖を照らし煌めく光景は大好きなのに、今日はその眩しさが苦しい。


カーテンの端をぎゅっと握りしめたけれど、総司を起こさないようにそろそろと引いた。


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