『Angel's wing』
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国内線に乗り換える為に搭乗口に行くと、見えたのは小さな機体にプリントされた見覚えがあるロゴ。
この飛行機に乗ればあの街に──…
中に入ると聞こえるのは英語だけで、私の語学力でやっていけるのかという不安が湧き上がる。
旅行とは違う緊張に体が強張り、あと数時間なのに英語の参考書を見たりしたけど…
集中できない上に時間はのろのろとしか進まなくて、雲の下に見える景色を眺めるとため息が零れた。
次第に不安定な気流の中に入り機体は左右だけじゃなく上下にも不規則に揺れ、本を読むどころではなくなったけど無事着陸。
預けていた荷物を受け取って歩き出すと不安よりも覚悟の方が先にくる。
がんばらなくちゃ…
到着口を出ると手を振ってる谷さんが見え、小さく頭を下げると彼女の元へ急いだ。
『谷さん、迎えに来てくれてありがとうございます。』
「気にしないで。今日はフリーだし、ここを愛してくれる人は大歓迎よ。大学に送ればいいんでしょ?」
『はい。事務局で手続きすれば入寮できるみたいです。』
自分の声は思ったよりも元気で、話をしながら外に出ると私の足が止まった。
乾いた空気には透明感があって、さらっとした風が頬を撫でていった。
この感じ…憶えてる……
駐車場には車がたくさんあるのに排気ガスすら感じないのは、広大な自然の成せること。
ゆっくりと息を吸い込むと微かに木の香りがする。
懐かしい…戻ってこれた……
心に溢れたものは、ここに降り立つまでに思っていた事とは全然違うもの。
「羽央さん…?」
『私…やっぱりここに来るべきだったんだなって……』
胸が一杯になって目にじんわりを滲んだものをさっと拭うと、谷さんが私の気持ちを代弁してくれた。
“魂が求めるって感じでしょ?”って…
悲しい訳でもないのに心が揺さぶられたのは、そういうことなのかもしれない。
ここに住むことは魂が望んだこと──
笑顔で頷く谷さんを見ると、昔、同じことあったのかなって思った。
街から少し離れた大学まで送ってもらい別れると、一人事務局へと向かった。
管理人さんを紹介され、一通りルールを教わり案内された私の部屋はベッドと机とクローゼットしかない小さな部屋。
初めての学生生活がここで始まるんだ…
窓から見えるのはモミの木のが生い茂る森。
小さな部屋にいても日本じゃないことを実感して気持ちが昂る。
寮は大学のすぐ目の前だから通学時間もかかかないし、食事も大学のカフェテリアで取れば自炊しなくても済む。
翌日、教室にいくとホワイトボードを囲むようにコの字型に並んだ机には、数人の生徒いた。
声をかけるだけでドキドキして、席は決まってるのか聞いてみると自由だと言われ窓際の空いてる席に座った。
私の英語通じた……そんな小さなことでも嬉しくて仕方ない…
先生らしき男の人が来ると、教室内には十人程の生徒が座っていたけど想像と違う。
学生といっても私より若い子は二、三人。おばさんみたいな人もいたし、色んな人種が入り混じっている。
学期の初日ということもあって自己紹介をしていくと、日本人は私だけ。
ゆっくりとした口調で簡単な単語を使ってくれる先生の話は理解できたし、クラスメイトの人達も珍しそうな視線を私に向けない。
そんな安心感を得て、前向きな気持ちでがんばろうって思った。
一週間もすると、休み時間に話をしてるクラスメイトの姿を見る。
私はといえば、挨拶はするけど話すのは授業で会話の練習をする時だけ。
左隣は無口な中国の女の子。右側はいつも空いてる。
プライベートな質問はいけないってガイドブックに書いてあったし、なんて話しかければいいのかわからなかった。
ある朝、授業が始まって10分経った頃、バタンと勢いよくドアが開き男の人が入ってきた。
波打つような蒼い髪を高い位置で結い褐色の肌…どこの国の人だろう…
空いてる席は私の隣しかなくて、その人は迷う素振りもなくどかっと大きな音を立て椅子に座った。